ウサギ【凪誠士郎】 ページ14
ひまだ。
ベッドで寝息を立てる凪の顔を覗き込む。
不服な視線に気づいたのか、パチクリと片目を開けた。
「なに」
「ひま」
「ふーん」
それだけ言うとまた目を閉じる。
彼が意味もなく部屋に来ることは少なくない。
ゲームの相手をしてくれるときはいいが、寝られると残された私はとにかく暇なのだ。
彼の頬をツンツンと触る。
「起きて。ゲームしよ」
「やだ。A弱いじゃん」
ぐうの音も出ない。
先日も格闘ゲームで惨敗したところだ。
彼を見ていると、ウサギとカメの童話は嘘なんだと感じる。
いくらウサギが寝ていようが、カメは追いつけないのだ。そもそも先が見えないほど大差をつけられた時点で心が折れる。
「音ゲーで勝てたら何でもしてあげる」
まだ彼に挑んでない分野があったと思い出し、今度は彼の頬を軽くつねる。
「なんでも?」
「なーんでも」
彼は少し考えた様子だったが、すぐに欠伸をした。
「別に、Aにして欲しいことなんてないしー」
なんでも持ってるやつは言うことが違う。
普通なら頭に来る台詞も、彼には妙な説得力があり腹立ちもしない。
「強いて言うなら寝させて」
何を言っても無駄だと判断した私は、ベッドに腕をつき、手の甲に頬を乗せて彼の顔を覗き込む。
整った顔。ふわふわの白い髪。
彼の寝顔を見ていると私まで眠くなってきた。
うつらうつらしていると、ぽんっと大きい手のひらが頭に置かれた。
その重みに目を開けると、彼の気だるげな目と目が合った。
「眠いならこっち来れば」
「狭いからやだ」
即答すれば「たしかに」と頷くが、ベッドを譲る気はないようだ。私のベッドなのに。
近くにあるのに絡まったりしない指先が、私たちの関係性みたいだと苦笑してしまった。
これは友情じゃない。恋愛でもない。
ただ、誰かに彼を取られたくない。
この天才に惹かれ、欲する人はたくさんいると思う。
私のものにならなくていいから、誰のものにもならないでほしい。
この歪な気持ちの名前は知らない。
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雨海(プロフ) - ひよさん» 読んでくれてありがとうございます!!気に入っていただけて嬉しい(〃ω〃)最近更新サボり気味だったのですが頑張れそうです(*´꒳`*) (2023年2月20日 13時) (レス) @page23 id: d5df2c0ba3 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - はじめまして、コメント失礼致します。タイトルにホイホイされまして読ませて頂きましたら……私の……私の理想の夢世界が広がっておりましたありがとうございます(泣) お話のトーンもめちゃくちゃ好みです!またの更新を楽しみにお待ちしております…! (2023年2月20日 9時) (レス) @page45 id: 03402cf4a3 (このIDを非表示/違反報告)
雨海(プロフ) - jやよさん» ありがとうございます!尊いなんてそんな…(〃ω〃)氷織くんいいですよね!綺麗かわいいし、関西弁がたまらん(*´-`) (2023年2月3日 0時) (レス) id: d5df2c0ba3 (このIDを非表示/違反報告)
jやよ - ぜ、全部尊いだと、、、主さんは神か? 特に氷織君が好きなのこういう短編集にあることも感激です!これからも主さんの好きなペースでいいので更新頑張ってください! (2023年2月2日 22時) (レス) id: 7c8c23da7c (このIDを非表示/違反報告)
雨海(プロフ) - ななノさん» ありがとうございます(*´꒳`*)そんなに褒めていただいて光栄です!夢主のあざと可愛いを意識してるので伝わってて嬉しいです笑モチベがめちゃ上がりました笑 (2023年1月29日 3時) (レス) id: d5df2c0ba3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨海 | 作成日時:2023年1月10日 18時