曖昧であまい【ブルーロック】短編集

けむり【アレクシス・ネス】 ページ11

煙を吐く私の横で、彼はわざとらしい咳をした。

「煙草やめてもらえません？副流煙は他者の体を害するって習いませんでした？」

貼り付けたような笑み。嫌味な物言いだ。

揺れる煙を見上げながら返す。

「アスリートなんだっけ、一応」

「れっきとした世界代表ですよ」

口元しか笑っていない彼は、左手で私の手首を掴み、右手で指先から煙草を取り上げた。それを地面に落としたかと思うと容赦なく踏み付ける。

勿体無い。まだ吸えたのに。

「なにか言うことは？」

「はーい、ごめんなさーい」
心はこもってないが素直に謝った私に、彼はやっと本心からの笑顔を向ける。
その切り替えが秀逸で思わず笑ってしまう。


近づく距離。
顎に手が添えられ、親指で唇をなぞられる。

「口寂しいなら、僕が相手してあげますよ」

「自分がしたいだけでしょ？」

挑発的に笑えば、一気に近くなる顔。触れる唇。

「‥ん、」

舌が絡まる。でも時折りわざと隙間を作るから声が漏れる。それを彼は楽しんでる。

「‥ふっ、煙草くさい」

私の頬に手を添え、耳を弄びながら眉を下げて笑う彼。いつもの貼り付けた笑顔ではなく熱を帯びた視線にゾクリとする。


笑顔が張り付いた胡散臭いやつ。それが第一印象。
サッカーをしていて、カイザーの従順な犬。
知ってるのはほんとそれくらい。

彼はいつも私に敬語を使うが、それは尊敬ではなく線引きだ。
だから私も踏み込まない。必要以上に彼を知ろうとしないし自分も明かさない。

この方が楽でいい。

不確かなくらいが、私たちにはお似合いだ。

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