もう、迷わない ページ34
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二人で不動産屋に行って決めた新居は
10階建てマンションの最上階で、大きな窓からは多摩川が見えて
不動産屋さんに 「春には桜が綺麗ですよー」と言われた。
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いつの間にか荷物が増えた翔の、
少し雑善とした部屋の中。
荷造り用のダンボールを隅に積み上げて
新居が嬉しいらしい翔は
駅まで自転車に乗って通勤すると言って
鼻歌交じりに、真新しい自転車にペダルを取り付けている。
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私はその隣で、智の荷物をダンボールにしまう。
青いスタジャン、赤いキャップ
スケッチブックと、買ったままの色鉛筆
色鮮やかなルアーがいくつかと
愛用していたブレスレットがたくさん。
そして、最期まで身につけていた、お揃いのシルバーネックレス
私はそれを小さな袋にしまって
自分の首からもネックレスを外すと、
..........一緒にその中にしまった。
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引越しを間近に控えた日曜日、翔が突然
翔:「智くんの墓参りに行こう」 と言い出して、
私たちは、買ったばかりの翔の車で
三ヶ月ぶりのお墓参りに出かけた。
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初夏の、天気のいい午後の日差しの中、
入道雲を遠くに見ながら二人、お寺の砂利道を上がる。
墓前で手を合わせて、翔よりも先に立ち上がった私は
翔が供えたお花の包装紙に
白い封筒が挟んであるのに気づき......
お参りを終えてようやく目を開けた、翔に尋ねる。
A:「ね、翔?......その、封筒なに?」
しゃがんだまま私を見上げた翔は、
一瞬、まぶしそうに目を細めて
翔:「......地図...新しい家の」 そう言って
「新しい家にも、智くんが遊びに来てくれるようにね」 と笑った。
眉毛をハの字に下げた、穏やかで優しい
.......大好きな笑顔。
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ねえ、智。
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私はこの先、この笑顔と生きて行くことに
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もう.........迷いはないみたい。
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