失えないもの 〜翔side ページ20
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気付いていたのは
智くんがもう、いないっていう事実?
それとも、オレがAを騙していたこと?
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ここ1週間ばかり、毎晩
Aが眠ったあとに飲んだコーヒーの味が蘇る。
ずっと眠れなかったのは、カフェインのせいではなく
きっと......後ろめたさのせいで。
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黙ったままのオレにAが呟く。
A:「わかってたの。本当は、とっくに。
ただ、わかりたく、なかったの」
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それじゃあさ。オレの気持ちは?
わかってた?
訊いてはいけない質問を、かろうじて胸の奥に飲み込んで。
その代わりにAをぎゅっと抱きしめると
オレの腕の中から Aが言葉を続ける。
A:「翔?...辛い役目をさせて...ごめんね。
でも......ありがとう」
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智くんのこと、1人で区切りをつけて
また笑顔取り戻したなんて
オレ、全然、Aの気持ちわかってなかったね。
たった1人で苦しみを抱えて
でもそれを必死で隠して。
オレには笑顔を見せるくせに
一人のときは智くんの「幻」なんか、求めてさ。
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オレ、決めたわ。
もう、絶対にAを手放さないよ。
Aから、逃げない。
やっぱり......失いたくない。
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なんども諦めようとしたけど
それこそ
智くんの、Aへの告白を聞いてしまったあの日から。
仕事忙しい振りしたり
休日も趣味に没頭する振りしたり
何度も忘れようとしてみたけど。
もう、たぶん、無理だわ。
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Aと一緒にいよう。
ううん、Aのそばに......いたい。
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オレの胸の中で細い体を震わせて泣きながら
繰り返されるAの
「ありがとう」と「ごめんね」
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それが決して、「好きだよ」に、ならなくても。
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