記憶 ページ17
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お墓参りからの帰りの車の中。
私たちは、お互い、ずっと無言だった。
私は、黙ったまま運転する翔の顔を盗み見る。
少し眉をひそめた、険しい顔。
こんな天気の中、つき合わせてしまって
翔には申し訳ないことをした、そう思って。
A:「ごめんね、翔。」
翔:「......何が?」
運転席から私を見る翔の顔はもう
いつも通りの穏やか顔で。
A:「あの......私のワガママにつき合わせて」
翔:「なんでだよ。嬉しいよ、一緒に行けて」
眉毛を下げて、笑う、この優しい笑顔が
私も、智も、大好きだった。
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翔:「でもさ......これからも毎月行くの?」
A:「...え?」
翔:「墓参り。
ずっと、毎月、行き続けるの?」
じっと私を見つめる翔の視線から
私は思わず眼を逸らす。
A:「......忘れたくないの」
翔:「忘れると思う?」
畳みかける翔。
A:「......わかんない。
わかんないよ。 でも......
もし記憶が薄れてきてしまったら
きっと私、智を裏切ってるような気がしてしまうから」
翔:「忘れるわけねーよ。
Aも、オレも。......忘れられるワケがない。
でも、もし、だんだんね?
智くんがいない生活に慣れてしまってもさ
......智くんが......あんな優しい人がよ?
『裏切られた』 なんて、そんな風に、思うかな?」
返事することができない私に、翔はそっと呟く。
翔:「智くん、Aのこと、
本当に大事に想ってたからさ」
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翔:「少し仕事するわ」
一緒に外で夕飯をすませて帰宅すると、
翔はそのまま部屋に籠ってしまった。
夜更けすぎから雨は雪に変わり
冷え込む室内に暖房をつけて、コーヒーを沸かす。
智が一緒にコーヒーを飲んでくれるようになってから
もう1週間以上、これは私の日課になってる。
A:「はい、智」
机に上にコーヒーカップを2つ並べる。
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A:「ね、毎月、お墓参りなんて行って、
智はむしろ、迷惑してるの?」
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今日の智は、返事を、してくれない。
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