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時の流れる時間は本当に早い
気づけばもう1月で、明日には入試を控えていた
いつも通りの塾の帰り道
今日もリュックの中に甘ったるいココアを2本入れたまま改札を通る
『 あのさ 』
明日雪降らなきゃいいね、とか、多分そんなことだろうなと思いながら彼女と目を合わせる
彼女の目は、真っ黒なのにキラキラしていてなんて言うか、多分小学生の時に集めていた宝物に似ている
『 ボタン、交換しない?』
それは本当に刹那だった
彼女が一瞬だけ目を逸らして、それからまた合わせてくる
「 ボタン?」
『 うん、紫耀の制服のボタン 』
彼女は俺の制服の袖のボタンをトントンと2回叩く
きゅん、と不覚にも心臓が鳴る
「 いいよ 」
そう言いながら、叩かれたのとは違うブレザーの上から2番目のボタンをプチッと取って彼女に渡すと、少し驚いた顔をしながらありがとうと受け取ってくれた
『 どれがいい?』
彼女は、自分の制服のボタンを見せるように手を広げて首を傾ける
たまらなくなってそのまま広げられた腕の中に飛び込んでぎゅっと抱きしめたくなったけど、やめた
「 袖のやつかな 」
『 え〜大きさ違うじゃん 』
「 違ったら思い出せるでしょ、俺の事 」
彼女は平然とそうだね、と言ったあと袖から少し小さいボタンをプチッと取って俺に渡した
ボタンを渡す時に少し触れ合った手に、変に緊張してしまったのはやはり俺だけだった
『 お守りにするね 』
「 俺も 」
『 頑張ろうね、明日 』
「 おう、頑張ろう 」
『 じゃあね 』
「 じゃあ、」
それからまた、反対側に向かう電車に乗り込む
握っているボタンを何回も何回も握り直した
リュックの中から単語帳を取り出し捲る
何回もめくった形跡のあるそれは、もうほとんど覚えてしまっていて意味がなかった
単語帳をリュックにしまった時、コツンと指に当たる感触に思わず笑った
結局、毎日この電車で飲むことになってしまったココアを今日も1人で開ける
味は変わらなかった
変わらなくていいな、と思った
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陽(プロフ) - だださん» わあああ、ありがとうございます( ; ; )どのお話も綺麗なハッピーエンドに出来なくて申し訳なく思ってたのですが、お言葉とても嬉しいです( ; ; )ありがとうございます、! (2019年11月23日 14時) (レス) id: 4f815a03de (このIDを非表示/違反報告)
だだ(プロフ) - 更新心待ちにしておりました!嬉しいです(;-;)陽さんの書く切ないお話がとっっっても好きで、毎回胸を締め付けられます(;-;)全部好きなんですけど、特に飛翔のなんとも言えないむずむずが最高でした…!今回の甘味も切なくて素敵でした!これからも頑張ってください! (2019年11月23日 10時) (レス) id: f8fe4bbe58 (このIDを非表示/違反報告)
陽(プロフ) - 霞草さん» こちらこそありがとうございます(; ;) (2019年11月1日 20時) (レス) id: 4f815a03de (このIDを非表示/違反報告)
霞草(プロフ) - すごく好きです。丁寧な文章と、温かい確かな記憶がとても素敵でした。感動をありがとうございました。 (2019年10月30日 22時) (レス) id: 402b5f83f6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:陽 | 作成日時:2019年8月29日 0時