飛翔 ページ8
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『 空くらい飛べたらいいのに 』
もうすぐ、大学入試が迫っている。冬。
彼女が塾の帰り道に不意にそんなことを言ったので、直ぐに言葉を返すことが出来なかった
「 飛ぶ、か 」
相変わらず掴めないことを言う
思えば、なんで俺はこの子を好きになったのだろうか
なんだっけ、もうきっかけなんて思い出せない
『 そう、空なんて簡単に飛べそうじゃない?』
「 飛べないから飛びたいって思うんだろ」
『 まあそうなんだけどさ 』
彼女は拗ねたようにこちらを見る
あと少しで今年が終わって、そしたら入試が終わってそのまま卒業して
彼女は東京に行く
分かっている。地元に残る俺とは物理的に遠いところに行くことは、ずっと、分かっているはずだった
「 空飛べたらさ 」
『 うん?』
「 いや、なんでもない 」
" 会いに行ってもいい?" なんて、なんて。
馬鹿だ。空を飛べるか問いかけた彼女なんかより数倍も
好きだ
理由なんているかな
マフラーを口元までぐるぐるに巻く彼女を見る度、冬が寒くてよかったなと思う
指先のギリギリまで伸びた制服の袖を見ると、もっと寒くなったら手を繋げちゃったりしないかな、とか考える
『 じゃあ、明日ね 』
「 おう、気をつけてな 」
お互いに手を振る
行き慣れすぎた、塾の最寄りの改札
彼女は2番線、俺は1番線
反対に進む電車に乗って、ただ家に帰る
リュックから俺には甘すぎる缶のココアを2本出す
今日も渡せなかったな、なんてため息混じりにそんなことを考えて、いつも通り1人で飲む
たまたま同じ高校で、たまたま3年間同じクラスで、たまたま出席番号が近くて、たまたま塾が同じで
そんな偶然が運命だなんてそんなことは思っていないけど、いつか彼女に告白していた岸なんかよりは全然運命だと思う
空を飛べる能力より、君との運命の方がほしい
「 気持ち悪、俺 」
思わずぼやいてしまったその言葉は、このガラガラの田舎の電車の中にこっそり響いた
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陽(プロフ) - だださん» わあああ、ありがとうございます( ; ; )どのお話も綺麗なハッピーエンドに出来なくて申し訳なく思ってたのですが、お言葉とても嬉しいです( ; ; )ありがとうございます、! (2019年11月23日 14時) (レス) id: 4f815a03de (このIDを非表示/違反報告)
だだ(プロフ) - 更新心待ちにしておりました!嬉しいです(;-;)陽さんの書く切ないお話がとっっっても好きで、毎回胸を締め付けられます(;-;)全部好きなんですけど、特に飛翔のなんとも言えないむずむずが最高でした…!今回の甘味も切なくて素敵でした!これからも頑張ってください! (2019年11月23日 10時) (レス) id: f8fe4bbe58 (このIDを非表示/違反報告)
陽(プロフ) - 霞草さん» こちらこそありがとうございます(; ;) (2019年11月1日 20時) (レス) id: 4f815a03de (このIDを非表示/違反報告)
霞草(プロフ) - すごく好きです。丁寧な文章と、温かい確かな記憶がとても素敵でした。感動をありがとうございました。 (2019年10月30日 22時) (レス) id: 402b5f83f6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:陽 | 作成日時:2019年8月29日 0時