・ ページ20
.
なんて言えばいいか分からないけれど、答えはなくて良かったのだ。彼女の返事が正解で、他に何を求めようとかもうそういう気にはならなかった。
「うん」って、ただのその一言がたまらなく優しくて、暖かくて、いちごミルクの飴みたいな。そんな気持ちになったのだ。
その先を求めようだなんて思う気にならなかった。彼女の存在を 特別 と認識すること自体が、もうただただ幸せでならなかったのだと思う。
そりゃあ、純白のヴェールを捲るのは俺が良かったし、彼女の足音を隣で聞ける存在になりたかったけれど、だけど 特別 なのだ。彼女は、何にも変え難い俺にとっての 特別 だったのだ。その事実が紛れもない俺の幸福で、もう彼女をどうにかしたいという気は起きなかった。
『 サボっちゃったね 』
「 お前が言い出したんやろ 」
『 はは、確かに 』
「 忘れんなよ 」
『 何を?』
「 今日のことも、今までも 」
『 忘れないよ、約束する 』
「 とか言って、俺が忘れたりして 」
『 ありえるね 』
そう言って笑って、タイミング良く鳴ったチャイムにまた笑った。彼女と過ごす時間は、これほどまでに穏やかで、ゆっくりと進む。全部暖かくて優しい。彼女を取り巻くそれが、もう俺を優しく包み込んでどうしようもない。
教室に戻ると、先生が真っ先に俺ら2人の名前を呼んで、もうすぐに変わってしまう彼女の名字にモヤモヤしたりした。
春が来る。春が来たら、彼女は他の誰かの何かになる。それが、もし俺が彼女に思う感情と同じであったらどうしようなんて意味のわからないことで悩んだりもするけれど、もう彼女が良いのならなんでも許そうと思う。
×
「 じゃあな 」
その日の帰り道、いつも通り彼女を家の前まで送る。俺が別れの挨拶をしてもなかなか返事をよこさない彼女に疑問を抱いていると、何か言いたげな様子で俺の元に近づいて、本当にどうしようも無いことを言うから、たまらなくなってしまう。それから、多分もうきっと彼女と前までのようには出来ないのだろうなと悟る。籍を入れたら、学校も辞めると確か言っていた。
" 廉で良かったと思ってるの。"
高校生なんて言う幼い俺らに、現実に対抗する力なんて着いていない。彼女にとって俺も 特別 だったらいいなと思った。優しくてどうしようもない何かが俺であったらもうそれだけで十分だと思った。
fin.
263人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
陽(プロフ) - だださん» わあああ、ありがとうございます( ; ; )どのお話も綺麗なハッピーエンドに出来なくて申し訳なく思ってたのですが、お言葉とても嬉しいです( ; ; )ありがとうございます、! (2019年11月23日 14時) (レス) id: 4f815a03de (このIDを非表示/違反報告)
だだ(プロフ) - 更新心待ちにしておりました!嬉しいです(;-;)陽さんの書く切ないお話がとっっっても好きで、毎回胸を締め付けられます(;-;)全部好きなんですけど、特に飛翔のなんとも言えないむずむずが最高でした…!今回の甘味も切なくて素敵でした!これからも頑張ってください! (2019年11月23日 10時) (レス) id: f8fe4bbe58 (このIDを非表示/違反報告)
陽(プロフ) - 霞草さん» こちらこそありがとうございます(; ;) (2019年11月1日 20時) (レス) id: 4f815a03de (このIDを非表示/違反報告)
霞草(プロフ) - すごく好きです。丁寧な文章と、温かい確かな記憶がとても素敵でした。感動をありがとうございました。 (2019年10月30日 22時) (レス) id: 402b5f83f6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:陽 | 作成日時:2019年8月29日 0時