あなたの隣にいたいのです【大橋和也】 (ページ8)

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プロ根性ページ8

大橋side

Aには付き合っている人がいる。

そして、そんなAに大ちゃんが思いを寄せている。

複雑な関係図を脳内で描きながら街を歩いた。

何度も家に入っているけれど、男の影はなかった。

彼氏の存在を匂わされたこともなければ、浮いた噂話も耳にしたことはない。

大橋「…ほんまにおるんかな」

無意識に独り言を漏らす。

もしそれが事実であったとて俺にはAを咎める権利がない。

自らその立場に立っているはずなのに、何故かその事実を悲しく思った。

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A「…何ですか？」

大橋「えっ…あ、何もないで」

俺が単独で出演する番組のロケの合間。

自然とAを目で追っていた自分に気付く。

A「何かついてます…？」

大橋「ちゃうよ、ちゃうちゃう」

鞄から取り出した手鏡と睨めっこするA。

俺の頭の中は丈くんから聞いた話で埋め尽くされていて、いつも以上にAを気にしてしまう。

A「…何かあったんですか？」

大橋「えっ？何で？」

A「何か…表情暗いので」

無意識に顔に出てしまっていたらしい。

俺は無理矢理笑顔を作る。

大橋「大丈夫やで」

皆の前では敬語を使ってあくまでただのマネージャーを演じるA。

2人きりの時とは違う、他人行儀な態度。

これまで俺らの関係性が周囲にバレずに済んでいるのはきっとAのお陰だと思う。

いや、違う。

演じているのではない。

事実、俺らはアイドルとそのマネージャーでしかない。

恋人でもなければ、Aの気持ちが俺に向いている訳でもないのだから。

腕時計とスケジュール帳を交互に見るA。

その横顔に帯びる微かな憂いの正体をいつか知ることはできるのだろうか。

そもそもAは大ちゃんからの好意に気付いているのか。

それすら読めずにモヤモヤする。

彼氏がいても俺と関係を持つということは、大ちゃんから迫られたとしても受け入れるのだろうか。

ふと目をやると、うなじにつけた赤い印が既に消えてしまっていることに気付いた。

今考えれば怒っていたのも納得できる。

不思議と彼氏さんに申し訳ないとは思わなかった。

ただただ、どんな人なのか気になった。

スタッフ「撮影再開しまーす」

A「はい！大橋くん、お願いします」

大橋「はーい！」

瞬時に気持ちを切り替えた自分のプロ根性に我ながら感心した。