あなたの隣にいたいのです【大橋和也】 (ページ26)

今日:6 hit、昨日:63 hit、合計:119,953 hit

フィクションページ26

やっぱり大橋くんはズルい。

テレビに映る優しくて穏やかで少し天然だけど一生懸命な愛されキャラの大橋くんなんてフィクションだ。

A「…ごめんなさい、知り合いが迎えに来るみたいなので」

山本「え？そうなんですか？」

A「はい、すみません」

丁度2軒目に行こうと話していた時だったからか山本さんは少し寂しそうな表情を浮かべる。

大橋くんの"あかん？"に私はめっぽう弱い。

彼はそれすら理解しているような気がする。

あの日終わりにしたはずなのに。

どうして私はまたこうして大橋くんに振り回されてしまうのだろう。

意思の弱い自分が本当に嫌になる。

ずっと好き。

出会った瞬間からずっと。

それは関係が途絶えてしまった今も変わらない事実。

だけど大橋くんといて幸せになれる未来は見えない。

アラサー独身女の心を弄ぶような大橋くんが私を幸せにしてくれる訳がない。

私を幸せにしてくれるのは、きっと山本さんのような人。

山本「じゃあ僕…先に行きますね」

A「はい…ごめんなさい」

山本「いえ！謝らないでください！また飲みに行きましょう！」

A「是非」

先にお会計を済ませておいてくれたらしい山本さんが店を出ていくのを見送り、私は溜め息をついた。

ねえ、大橋くん。

あなたは今何を考えているの？

私のことを何だと思ってるの？

そう聞けたらどれだけ楽だろうか。

.

.

.

タクシーの車内は無言だった。

お互いに口を開くことなく、目を合わすこともなかった。

ただひたすらに私の家に向かう窓の外の景色を見ていた。

鍵を開けて玄関に入った瞬間、大橋くんが背後から私を強く抱き締めた。

久しぶりに感じるその温もりは私がずっと求めていたものだった。

A「大橋くん…」

大橋「…ごめん」

A「何で謝るの？」

大橋「もう会わんつもりやったやろ？」

A「だって大橋くんが…」

大橋「うん。俺もそのつもりやった。」

A「じゃあ何で…！」

手を振りほどいて勢いよく振り返ると、大橋くんは今まで見た中で1番切ない表情をしていた。

A「…何でそんな顔するの？」

大橋くんは答えない。

A「何で…？何で振り回すの…？」

頬を涙が伝った。

大橋「…ごめんな、」

その言葉が引き金を引いた。