あなたの隣にいたいのです【大橋和也】 (ページ12)

今日:3 hit、昨日:63 hit、合計:119,950 hit

架空の彼氏ページ12

長尾くんと道枝くんはよく言い争いになっている。

この中だと1番年上の高橋くんがお兄ちゃんっぽく振る舞ってそれを仲裁する。

私達事務所の人間からするとこの流れは最早伝統芸。

長尾「東京慣れへんわー」

道枝「迷子はもう嫌やな…」

長尾「Aさんって東京住んで長いんですか？」

A「大学からだから…もう10年くらいですかね」

"すげ～"と口を揃える3人。

長尾「俺らもいつかは住むんかな」

道枝「一人暮らしかあ…」

改めて言葉にすると本当に長い。

田舎出身の私も彼らと同じように都会の街並みを何度もさまよった。

徐々に慣れてきて、周りにも馴染んできて。

方言も出なくなり、地元に帰る回数も減り。

気付けば約10年という月日が流れていた。

高橋「Aさんって結婚願望とかないんすか？」

A「え？」

高橋「いやだって10年一人暮らししてるってことっすよね？」

A「…はい」

高橋「寂しくならんっすか？」

嫌味のつもりなく純粋な目で問いかけてくる高橋くん。

A「寂しくはないけど…結婚は…したいです」

自分で言って惨めになった。

1人に慣れすぎて孤独を感じなくなったのは本心。

だけど独身のまま年老いていくのは怖い。

この10年間、恋愛をしてこなかったわけではない。

人並みの男性と人並みの恋愛をして人並みのお付き合いは経験してきた。

ただ、長く続くことは少なかった。

それが私の多忙さ故なのか定かではないけど、少なからず仕事に集中しすぎたというのは原因の1つだと思う。

道枝「今の彼氏さんとはどうなんですか？」

A「彼氏なんていないですよ」

長尾・道枝「えっ？」

道長コンビの目が点になる。

長尾「え…この間聞いたよな？」

道枝「うん…聞いた」

高橋「てかその話したらあかんやろ」

道枝「えっ何で？」

高橋「"ここだけの話"って言われたやん」

長尾「あ！言うてた！」

"どうしよう"と頭を抱える道枝くんの肩を長尾くんが優しく叩いた。

長尾「言ってしまったもんはしゃあないで。」

A「あの…何の話ですか？」

困惑する私を前に3人が顔を見合わせる。

長尾「Aさん彼氏おるって聞いたんです」

道枝「メンバー全員知ってます」

高橋「大吾くんは知らんやろ」

道枝「あ、そっか。」

A「それ誰に聞いたんですか？」

思い当たる節のない、架空の"彼氏"の存在。

長尾「…これ言って大丈夫？」

高橋「ええやろ」

道枝「丈くんです。」