おやすみの前に(F.T) ページ34
福本「…なあ」
A「何？」
静かな夜の空に声が響く。
福本「…近ない？」
近い。
さっきからずっと近い。
いくら何でも距離感ミスってへん？
A「ええやんか別に〜」
福本「いや…」
善し悪しではなく、あまりの不自然さに違和感を覚える。
福本「もしかして怖いん？」
A「はあ？んな訳あらへんやん」
いや、絶対怖いやん。
―とツッコミを入れるのは心の中だけにしておいた。
心霊スポット1泊2日。
くじ引きで決まったこの企画に1番反対していたのがA。
運気下がるとか何とか言ってたけど、ほんまは怖いだけやろ絶対。
まあでも"一応"女の子やしな―
そんなことを考えながらポテトチップスに手を伸ばした。
響く咀嚼音にAが顔を顰める。
A「大晴は？」
福本「え？」
A「怖くないん？」
福本「んー…あんまり」
恐らくメンバーの中で1番恐怖心が薄いであろう俺。
どちらかといえば外で寝なくてはならないことの方が不快に感じる。
寝袋とはいえ実質地べたやで、こんなん。
福本「なあ、やっぱちょっと近すぎるって」
体を寝袋にすっぽりと収め、顔だけを出したAがこちらを見つめる。
芋虫みたいやなあ―
なんてさっきまでは思っていたものの、暗闇に目が慣れてきたところですっぴんの幼さと無防備さに気付かされる。
A「別にええやんか」
互いに寝袋に入っているとはいえ、密着していることによって体温が伝わる。
A「私より先に寝んといてな」
ほら、やっぱり怖いんやん。
福本「えー…？」
建物の中にはメンバーもスタッフさんもいるのに、ここは2人だけの世界。
何だか不思議な気持ちになる。
福本「Aが寝てくれな俺寝れへんやん」
A「ん、そやで？」
福本「はよ寝な先寝るで」
A「でもまだ眠くないし」
繰り返される瞬き。
視線がぶつかって、思わず黙り込んで。
―寝れんわ、こんなん。
福本「やっぱちょっと離れへん？」
A「何で？」
福本「寝袋やからって近すぎるわ」
A「あかんの？」
福本「んー…緊張する」
A「ふは、何それ！私に緊張することとかある？」
同期で同い年。
入所以来ずっと一緒。
どうやら今更魅力に気付いてしまったらしい。
福本「…あるやろ」
A「ふーん？」
福本「…女の子やし」
"一応"、な。
Fin
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作者名：わさび醤油
| 作成日時：2022年9月23日 7時
