君の傍に(S.S) ページ29
俺らっていつデビューできるんやろ。
そんなことをぼんやりと考える。
もしデビューしたらもっともっと知名度が上がって有名になって、
全国区の番組に沢山出演したりドラマや映画で主役を演じたり。
それがどんな世界なのかはまだ分からない。
だけど明るい未来であることに間違いはなくて―
A「おはようございまーす」
末澤「おはよ」
嗅ぎ慣れた香水が舞った。
ふわりと優しく擽られる。
A「あれ？まだ誠也だけ？」
末澤「そやで」
"ふーん"と呟きながら隣に腰を下ろすA。
横顔にチラリと目をやると、耳たぶに小さなピアスが光った。
末澤「…付けてるやん」
A「え？」
末澤「これ」
柔らかな肌にそっと触れる。
A「ああ、ピアス？」
末澤「うん」
A「そら付けるやろ」
先週の誕生日に俺が贈ったプレゼント。
早速身に付けてくれていることが嬉しくて照れくさくて、無意識に口の端が上がった。
―デビューするより前には伝えたいな。
仮に空回りだとしても、心に届かなくても、
胸の内をちゃんと言葉にしたい。
だけどプランなんてなくて、それがいつになるかは分からなくて。
デビューの目処すら立ってないのに気持ちを伝えるだなんて無責任な気もして。
浅はかなことはしたくない。
心ではそう思っていても、男としての欲望は日々募るばかり。
A「今日の撮影長引くかなあ…」
末澤「何で？」
A「え？」
末澤「何かあるん？」
A「斗亜とこじけんとご飯行く」
末澤「ふーん…」
ええよなあ、斗亜も小島も。
仲良いってだけで定期的にプライベートで会えるんやから。
俺には時間がない。
現状に不満はないけれど、焦っていないわけでもない。
それはデビューに対してもAに対しても同じこと。
A「誠也も来る？」
末澤「行かんわ」
A「何やねん、ノリ悪」
再び光ったピアス。
こんなものじゃ俺の気持ちは届かない。
末澤「…2人やったらな」
A「ん？」
末澤「2人やったら…行くけど」
素直になれない自分にも鈍感なAにも飽き飽きしている。
A「2人って？私と？」
―なあ、ピアス贈る意味って知ってる？
末澤「他に誰もおらんやろ」
"いつでもあなたの傍にいたいです"。
末澤「…2人ちゃうかったら意味ないやん」
明るい未来はもうすぐそこまできている。
Fin
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作者名：わさび醤油
| 作成日時：2022年9月23日 7時
