君が嘘をつくときは(T.K) ページ25
都内の夜景がキラキラと瞬く。
その眩しさに目を細めつつ、僅かに胸が苦しくなった。
A「恭平〜」
高橋「ん？」
デビュー前のことを懐かしく思うのは今の暮らしに慣れた証だろうか。
以前より気持ちが大きいのは、共に過ごす時間が長くなっているからだろうか。
A「見てこれ〜、謙杜に貰ってん」
淡いパープルのスマホケース。
A「誕プレやって！めっちゃ遅ない？」
ケラケラと声を上げて笑うAの横顔を眺める。
―ちょっとクマできてるやん。
高橋「寝不足？」
A「は？話聞いてた？」
会話が噛み合わないことを面白く思ったのか、再び笑い声が上がる。
A「恭平ってほんまに一緒におって飽きへんわあ、」
無理はせんといてほしい―
なんて、まるで親みたいな心配をしてしまうのはきっと恋人としての性。
Aを見ていると不安な気持ちになる。
明るい笑顔のその裏で、人知れず憂いを溜め込んでいるのではないか。
自身も気付かぬうちにこの職業に対して疲弊しているのではないか。
笑顔を作ることが当たり前になっているのではないか。
A「あーあ、はよ帰りたいなあ」
ぼんやりと呟いたAの顔を覗き込む。
A「買ったばっかのゲーム、全然やれてへんねん…」
高橋「あ、結局買ったん？」
A「買った！友達も皆やってるし！」
移動車に揺られて進んでいく。
A「恭平も買ったら？」
高橋「んー、考えとく」
いつか消えてしまうのではないか―
考え過ぎだということは重々承知している。
何よりも俺の気持ちが重すぎることも理解している。
だけどその不安が完全に拭い去られることはなくて、どうしたって想像してしまって。
俺の前から、
世間の前から、
友人や家族の前から、
ふと消えてしまいそうな儚さを感じるのは気の所為か否か―
好きだからこそ不安で、大切だからこそ気が気じゃない。
"メンバー"を超えた存在だからこその感情が巡る。
A「…恭平？何でそんな難しい顔してんの？」
高橋「え？」
A「何か嫌なことあったん？」
高橋「いや…」
A「…恭平、私はずっと傍におるから大丈夫やで」
心を見透かされたような気がした。
高橋「…信じるで？それ」
A「うん、当たり前やん」
―なあ、知ってる？
Aって嘘つく時、右側の耳たぶ触るんやで。
高橋「…信じるわ、」
その手に無理矢理左手を絡めた。
Fin
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作者名：わさび醤油
| 作成日時：2022年9月23日 7時
