白い煙と君の恋(S.M) ページ23
佐野「…美味いっすか？」
横目で俺を見上げた彼女が口角を上げる。
ゆっくりと悪戯に。
A「吸ってみる？」
それが冗談だと分かっていながら小さく頷いてみた。
A「嘘に決まってるやん。晶哉はあかん。」
何でAちゃんは良くて俺は駄目なんすか？
―なんて喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
20歳になった。
大人になったつもりだった。
だけどやっぱりまだまだAちゃんには敵わないし及ばない。
A「てかわざわざここまで着いてくるんやめて」
近付くどころか遠ざかっているような気さえする。
常に追いかける立場であることはこの先ずっと変わらない。
テレビ局内の喫煙室。
俺らの他には誰もいない。
A「副流煙とかあるしさ、」
健康に害を受けるのはAちゃんも同じ。
寧ろ喫煙者本人の方がリスクは高いはず。
A「…今言い返そうとしてるやろ」
佐野「バレました？」
A「私はええけど晶哉はあかん、とにかくあかん」
硬い意志を貫く彼女が白い煙を吐いた。
もくもくと浮かび上がるそれは呆気なく換気扇へと吸い込まれていく。
A「はよ戻ったら？」
邪魔者扱い。
いつだってそう。
歳は3つしか変わらないはずなのに、それより幾分か大人に感じる彼女の横顔に思いを馳せる。
どれだけ募らせたって受け入れてはもらえないのに。
A「煙草くらいゆっくり吸わせて」
―片思い。
俺だけではなく、きっと彼女も。
女の人が煙草を吸い始めるきっかけなんて、大体男の人の影響やと思う。
Aちゃんが誰に感化されたんかは知らんけど、多分それは―
A「あ、」
ゆっくりと扉が開いた。
末澤「え？佐野？」
佐野「…誠也くん」
末澤「何でおるん？」
佐野「いや…」
不思議そうに首を傾げた誠也くんが自身のポケットから取り出したそれを口に咥える。
末澤「においつくで」
着火。
燃える。
煙が上がる。
消えていく。
―ほら、ね。
A「晶哉、はよ戻りや」
俺がそうであるように、彼女もきっとそう。
佐野「…誠也くん」
末澤「ん？」
佐野「…美味いっすか？」
視界を埋め尽くす白煙。
Aちゃん、ごめんなさい。
2人きりにしてあげるような余裕は持ってへんっすわ。
末澤「…吸ってみる？」
Fin
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作者名：わさび醤油
| 作成日時：2022年9月23日 7時
