大好きで大嫌い(M.S) ページ26
外は雨。
パラパラと降り注ぐ水滴の音が響いている。
東京でのホテル暮らしにもすっかり慣れた。
いつかは引越しをして完全に上京することになるのだろうけど、忙しないスケジュールの中でその目処は立っていない。
美しい夜景やイルミネーション、立ち並ぶビル街や都会の喧騒。
大阪も十分に栄えているけれど、やはり都内は別格のように感じる。
忘れたくないなあ。
ふとそんなことを思った。
どれだけ東京に馴染んだって、何度ドラマの撮影で標準語を学んだって、
大阪で生まれ育ったことは二度と忘れたくない。
俺にとってたった1つの故郷で培った思い出達。
そのどれもが一生の宝物。
A「みっちー、今何時…？」
隣で眠っていたAが目を覚ました。
まだ寝ぼけているのか、ゆっくりと瞬きを繰り返している。
道枝「7時」
A「そろそろ準備せなあかん…」
今日はオフ。
だけどAは出かけるらしい。
道枝「雨やで、今日」
A「げ、マジで？嫌やあ…」
動く気を失くしたのか、頭から布団を被ってしまったA。
このままではきっと二度寝してしまうだろう。
大阪が恋しいと思うことも少なくなってきた。
所謂"染まった"というやつだろうか。
A「…あかん、遅刻したらやばい」
二度寝してしまえばいい―
なんて心のどこかで思っていた俺は体を起こしたAを見て少し残念な気持ちになった。
A「自分の部屋戻るわ」
道枝「あ、うん」
行かんといて。
その言葉を口にできたらどれだけ楽だろう。
どこへ行くのかなんて、直接聞かずとも分かってしまう。
オフの度に新幹線で大阪へ帰る理由だって知っている。
A「じゃ、また明日〜」
大阪が好き。
だけどそれと同じくらい大阪が嫌い。
俺からAを奪い去るその場所に勝ち目なんて微塵もないから。
部屋を出ていくAの背中に手を伸ばした。
触れられるはずなんてないのに。
"寂しいから一緒に寝よ"なんて言って毎晩のように俺の部屋にやって来るA。
きっと俺のことを聖人君子か何かだと思っているに違いない。
俺だって男なのに。
Aのことがこんなにも好きなのに。
扉が閉まる音と同時に瞼を閉じた。
俺がAの代わりに二度寝をしよう。
雨の音に耳を傾けて夢の世界へ入っていく。
そこには幸せがあると信じて。
今日も今日とて愛する人は大阪に住む恋人の元へと会いに行く。
Fin
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わさび醤油(プロフ) - kkさん» ありがとうございます！とても嬉しいです…これからも楽しんで読んで頂けると幸いです！ (2022年7月13日 1時) (
レス) id: 9e28345530 (このIDを非表示/違反報告)
kk(プロフ) - 一話完結型の短編集でこんなにもどのお話も楽しく面白いなと感じたのは初めてでした❤︎お忙しい中、たくさん更新してくださり毎回更新されるのが楽しみでした(^^)また続編も今から楽しみにしています❤︎ (2022年7月12日 23時) (レス) @page50 id: 797470a670 (このIDを非表示/違反報告)
わさび醤油(プロフ) - kkさん» コメントありがとうございます！楽しんで頂けて幸いです。そしてリクエストもありがとうございます！更新まで暫くお待ちください！ (2022年6月24日 12時) (レス) id: 9e28345530 (このIDを非表示/違反報告)
kk(プロフ) - 小島くん、大晴くんがメインのストーリーリクエストさせて頂きたいです❤︎お忙しいとは存じますが、更新楽しみにしています(//∇//) (2022年6月24日 0時) (レス) id: 797470a670 (このIDを非表示/違反報告)
kk(プロフ) - コメント失礼します。紅一点設定大好きで、わさび醤油さんが書かれるお話や設定、展開がとても素晴らしくて楽しく一気に読ませて頂きました❤︎どのお話も好きなのですが、特に小島くん、大晴くんのお話にきゅんとしました❤︎ (2022年6月24日 0時) (レス) @page16 id: 797470a670 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：わさび醤油
| 作成日時：2022年6月15日 0時
