逢瀬の夏空【tn】 ページ46
夏空の憂鬱の続きです。
n +数年ぶりの帰省だった。盆地ならではの蒸し暑い故郷は都会にはない清々しささえ感じる
久しぶりに帰った実家の私の部屋は高校の時から変わらない。うざったらしいワークも彼が忘れていった小難しい本も全部私の元に残っていた
「A、トントン君もこっちに帰ってきたって。今お向かいで水やりしてるわよ」
てっきり向こうで生涯暮らすのだろうと思っていた彼が帰ってきていたことに驚く。窓を開けると、向日葵に向かってホースで水を撒いている君がいた。彼も昔の面影は残ってはいるが、ちゃんとした大人になっていたようだ
「久しぶりに会ってきたら？」
今の私を見て、君は何と言ってくれるのだろうか
「…また今度、ね」
…いや、今更すぎる。今まで連絡も取らないでしれっとした顔で会ったところでどうなる
やっと私から解放されたのだから彼が私に会いたいわけがない。きっと彼もせいせいしてる。きっとそうだ。じゃなかったらこんな、
「…」
私はまだ随分と子供のままだ。君に会いたいけれど理由がもう何処にも見つからない
「……」
勉強嫌いで今までテキストも必要最低限しか開かなかった私が咄嗟にワークを引っ掴んでページを捲る。彼の置いていった本は理解ができないから、まだこっちのが答えがあって理解ができる気がする。ただ今はこの気持ちを抑えるのに必死だった
シャープペンシルの消し痕と手汗でボロボロになったワークを眺める。真っ黒で所々消し毬も挟まった汚いワークの中で赤の丸や大きなバツ印が綺麗に残っていた
丸付けも君がしてくれたんだっけ
隙あれば答えを写そうとする自分を止めるために、丸付けも君の仕事だったと思い出す。問題によって、少し丸の形が変わっていて、豚のマークなども書かれてあった
君は私が飽きないように色んなことをしてくれた。小学生の頃はスタンプカードを作ってくれて、中学生はタイムアタックで早く終わらせたからと夏祭りで取れたぬいぐるみをくれて、高校生になってからは丸の形を変えてくれた。私って案外ちょろい奴だと我ながら苦笑する
君はいつも私のことを気にかけて、見捨てないでいてくれた
思い出を捲っていくと最後の問題だけ大きな丸では無かった
「…あ」
彼にしては威勢がなく、問題番号の上に小さくハートが描かれてあった。恥ずかしがって、私が頼んでも彼が描けなかったマークだ
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 179人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
逆転の人(プロフ) - ここのつちゃんさん» すみません1番初めの話から見落としていました。本当にすみません。長々とレスもしてしまって本当に申し訳ありません。死ぬ気で直します。もう本当にすみません。 (2022年8月19日 5時) (
レス) id: 97fd8434b7 (このIDを非表示/違反報告)
逆転の人(プロフ) - ここのつちゃんさん» 最近は書かないようにしていましたが、どうしても無意識のうちに書いてしまうことも多く、見直してもよく見落としてしまっています。お恥ずかしい部分をお見せしてごめんなさい…直ぐに訂正します。ご報告ありがとうございました。非常に助かりました。 (2022年8月19日 4時) (レス) id: 97fd8434b7 (このIDを非表示/違反報告)
逆転の人(プロフ) - ここのつちゃんさん» いつもありがとうございます。その名前は私がよく小説に使っている自分の中の夢主像の名前で、小説を書くときも下書きの段階からその名前で仮で書いています。そのままここに載せてしまってそのままになっていたんだと思います。申し訳ありません… (2022年8月19日 4時) (レス) id: 97fd8434b7 (このIDを非表示/違反報告)
ここのつちゃん(プロフ) - いつも楽しく拝見させていただいております。ところでいくつかの物語に出てくる「こるて」という名前は何でしょうか。 (2022年8月19日 4時) (レス) id: c790a783a7 (このIDを非表示/違反報告)
774号（現在稼働中）(プロフ) - 逆転の人さん» マジで私達読者にとって最高のサプライズですよ……何回私の涙腺を崩壊させるおつもりですか!?本当に本当にありがとうございますぅうう (2022年6月19日 19時) (レス) id: e50bf9dc91 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：逆転の人 | 作成日時：2021年6月1日 0時
