永遠色グラフィティ

コヤ離れ(4) ページ43

目を開くと、太陽は既に闇を隠していた。

でもカーテンはまだ閉じられたままだ。


サイドテーブルの洗面器と、おでこから落ちたであろう濡れタオル。

タオルを洗面器に入れると、色を変えて静かに沈んだ。


ズキズキと痛む頭のままベッドから這い出る。


「こやま・・」

トイレにでも行ったのかな。

風呂場か？

もしかしたらご飯作ってくれてるのかも。


よたよた部屋を渡り歩いても、求める姿はどこにもない。


「こ・・やまぁ・・っ」

冷たい床にへたり込んで俺は、自分の涙に気づく。

なんか、濡れてる・・。


「うっ・・うぇ・・」

後はもう、止めらんなかった。

握った手の甲にこぼれる水滴。


「も・・なんなの、これ・・」


これじゃあ恋しいみたいじゃん。

俺・・小山に置き去りにされて、寂しいみたいじゃん・・。


涙を一粒こぼすたび、息をするのが難しくなる。


もう無理、息できない・・過呼吸になる直前でやっと、

テーブルの上の紙切れに目が止まる。


あ・・。


”帰りにまた寄るね”


俺・・、出さなくていいもん流してたのか。


小山のせいで、蓋をしていた気持ちまで露呈させられ

泣かされて。


なにやってんだろ、俺。


少し冷静になって、顔を洗おうと立ち上がるけれど、

まだ足は言う事を聞こうとしない。

あちこち身体をぶつけながら、洗面所にたどり着いた。


「うげ・・目ぇ腫れ過ぎだろ・・」


こんなに自分の中に水分があったのかって位、泣いた気がする。


水で顔を洗ってタオルに手を伸ばすと、

何かが手にあたってゴトンと落ちた。


それはあの日、あいつが後ろ手に隠した小さな紙袋。

”大事な物が入ってますよ”って、

涼しい顔で主張してるみたい。


横たわったそれは、留まったシールで守られて、

中の箱は収まったまま。


妙に冷えた気持ちが胸に湧く。


なんだ。

その程度の、気持ちなのか。

俺んちに置いてく程度の、

忘れられて床に転がっても構わない程度の。


小山のその人への気持ちは、そんなもんなの？

そんな人に小山を取られる事が不条理に思える。

小山は、そんな人と結婚して幸せになれるの？


あの日嬉しそうに指輪を選んでいた顔を思い出す。


だから決めたのに。

想うだけで小山をあんな笑顔にする人がいるのなら。

もう離れようって、決めたのに。


洗われたはずの顔が、鏡の中で歪んでいく。

また滲み始める世界。


もう嫌だ。

考えていたくない。


小山のことなんて。



(つづく)

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