永遠色グラフィティ

コヤ離れ(3) ページ42

「昨日から熱あったんでしょ」

家に上がり込んで来た小山が

俺をベッドに寝かせて顔を近付けてくる。


「ないし・・来んなっ！」

久々に見る小山の顔に耐えきれずに、腕で顔を隠していた。


「ちょっと、なんで隠すの。熱計るんだからでこ触らせろっ」

傷ついたのを隠すように、小山が笑う。


否、違う。

傷ついてたらいいなってのは、俺の願望。

傷ついてるわけないじゃん。

小山はもう、別の人のもの。


どこの誰かも知らない、

会った事もない、

一生会いたくもないその人は、

どうやって小山のハートを奪ったの？


「・・やま・・」

「ん？」

無理矢理おでこに手をあてて、

やっぱり体温計がなきゃだめだとか呟きながらカバンを弄る小山。



「こやま・・行かないで・・」

だから来るなと言ったのに。

こんなこと、言いたくなかったのに。


「行かないよ、シゲが寝るまでここにいるから」

「うん・・」


違う違う、そうじゃない。

あ、こんな歌詞の歌があったっけ。

ふと思い出して笑う。


「ん？どした？」

「こやま、水・・」


身体が熱くて、

喉も熱くて、

冷ましたくて。


小山なんかに、こころごと全部持ってかれてる自分を

救い出したくて水を求める。


「シゲは、」

「え・・？」

「いや、なんでもない。待ってて」

小山はそう言って寝室を出て行った。



ーーーーーーー



すぐに戻ってくると思っていた小山が

全然戻ってこなくて、

俺はウトウト夢との間を彷徨っていた。


”・・・だよね”


遠くで誰かの声がして

聞き耳を立て始めるぼんやりとした意識。


”・・って言ったじゃん！”


その声は段々大きくなって、俺の脳内を支配し始める。

ただ小山の声だと言うだけで、俺の全てが反応していた。


もう大丈夫だって言っただろ、俺。

小山を解放してやろうって、決めたのに。


小山の声が止んだ気がして、布団をのけて立ち上がる。

おぼつかない足取りは、思った以上に俺を狼狽えさせた。


なんでこんなに熱下がんないんだ？俺。

いつもなら一晩寝たらケロっとすんのに。悪い病気だったりして。

一度頭に浮かんだ絶望は、瞬く間に俺の脳内を浸食する。


なんだ、小山が俺を置いてけぼりにしなくても、俺はもういなくなるのかも。


ドアを開けたものの、廊下に佇む小山を認めて足下が泥濘み出す。

わっ、なんだこの床・・。


ぐにゃりと歪んだ視界と、小山のびっくりした顔。


俺の心配だけしてろよ、小山。





(つづく)

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