永遠色グラフィティ

虜(5) ページ38

「あ…れ…」

涙を拭うように頬に触れた手が力なく降ろされたかと思うと、シゲはその場に崩れ落ちた。


「ちょっ…！」

咄嗟に抱きかかえると、全く意識がない。

俺より背の高いシゲを支えきれずによろけていると、美術館の人が駆け寄って助けてくれた。


救急車を呼んだ方が良いと言うのをやんわり断り、車に運ぶ。


助手席に乗せたシゲのポケットから

キーを見つけて取り出そうとすると、布の上から大きな手が添えられて。


「シゲ？」

顔を上げると、


「ずっと会いたいと思ってたんだよ、祐也」

そっと目を開けたシゲの表情は、驚く程エマに似ていて。


深い色の瞳は、俺と目が合っているのかいないのか、

それとも俺の目の奥にある誰かを見つめているのか、わからない。


それなのに、

「俺も…。」

何故だか俺はそう答えていた。



ーーーーーーー



また目を閉じたシゲの手があったかくて

このまま包まれていたいって思う。



車を走らせて俺のベッドにシゲを寝かせると、

柔らかい笑みを浮かべて「ん…」と寝返りを打った。


「シゲ…」

自分が離した手を見つめると、そこに少し前まであった温もりが恋しくなる。


「勝手だよなぁ、俺」

シゲを好きになったのも、シゲから離れたのも俺なのに。


「手越…」

ぱちっと開いたシゲの目が、寝そべったまま俺を射る。


「シゲ…ごめんね、俺…」

その目があまりにも優しくて、

全部を見透かされた気がして恥ずかしくなって来る。



そんなこと思っていたら、シゲは手を俺の頭に伸ばしてくる。


「お前は、俺から離れられないんだよ。

…だろ？」

くしゃっと髪の毛を乱されて、シゲの顔が近づいてくる。


「そうだよ。

…全部全部シゲのせい、だよ。

一生どころか、前世だって来世だってっ…んっ？」


「もう、他の人んとこ行ったら許さない…からな」

そう言いながら起き上がり抱きついて来た。


首にかかる息がくすぐったくて身をよじると、

「逃げるなよ」

と首筋を冷たい舌で舐められる。


「ひゃっ」

びっくりしてシゲの顔を見ると、俯いた目がじっと俺に注がれている。

またその目に俺を映してくれるの？

絡まる指。



「エマだった時のこと…」

「ん？」

「覚えてる？」

久しぶりに手をつないだベッドの中で尋ねると、


「ああ…覚えてる。

お前の目も、触れた手も、お前の…」

「え？」

「熱も、な」

「ばっっ！」

シゲの熱っぽい目と微笑み。

俺はいつでも、この目の虜。



fin.

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