僕の誕生日＜NEWS編＞

ころからころん(４) ページ10

「うん」

貴久から身体を離して荷物を受け取ると、

貴久がお兄ちゃんに言った。


「俺、絶対Aのこと幸せにするから」

私のシャツの裾を掴んだまま。


「お前さー、いつまでアイドルやるつもり？」


お兄ちゃんは唯一、私と貴久の関係を知っている。

だから、次々に結婚していく友達と私を比べたりせず、

親から向けられる言葉にも援護射撃してくれた。


「兄ちゃんは結婚して幸せ？」


貴久が聞くと、


「幸せは幸せだけど、結婚したからってわけじゃない。

好きな人と一緒にいられるから幸せなんだと思う」


お兄ちゃんは真剣な顔して言った。



「俺、アイドルはきっと、一生辞めない。

だけど、Aのことも、もうすぐ絶対幸せにする。

これまで散々待たせたから、

誰よりも幸せにする」


口を尖らせ目に涙を浮かべている貴久を、

お兄ちゃんが小突く。



「泣くのはお前じゃないっつーの！」


「ごめん〜っ！」


必死で涙を袖で擦る貴久が愛しかった。


「お兄ちゃん、貴久のこと小突かないでよっ！」


「なんだよ！俺はAのことを思ってっ！」


「まあまあ二人とも、落ち着いてっ！」


「うるさいっ！元はと言えばお前がぁー！」


諍いを始めた二人を引き離して貴久の頭を撫でると、


「で、A、どこ引っ越すの？」


当然教えてもらえると思っていそうな顔に腹が立つ。



「だから言わないってば。

お兄ちゃん、行こう！」


荷台を降りると、

「ちょっと！降りたらだめだよっ！」


小声で貴久が腰を屈めた。

降りたら話せないからね。


でももう良い。

これ以上ここにいたら、離れたくなくなるから。


決めたんだ。

一人で貴久を待つって。



「はい、これあげるから帰って」


ポケットからあめ玉を出して荷台の貴久に渡す。



「A・・」


またきれいな目から涙が滲み、足下に落ちた。



「泣き虫・・」


十年ぶりに見る貴久の涙。


いつだって、

貴久は私との別れが辛くて泣くんだって、

自惚れても良いよね？



「また会おうね」


触れた手を握りしめ、夏の終わりと共に私は故郷を後にした。




ーーーーーーー




Aが家を出て数日後、

NEWS結成１０周年の記念ライブが行われた。


兄ちゃんを通じて送った招待券。


その席にAの姿は無く、

奥さんと一緒に俺に手を振る兄ちゃんが立っていた。


Aのこと、見つけられるのかな。

お兄ちゃんにクイズを出された気がして、不安になった。



(つづく)

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