僕の誕生日＜NEWS編＞

ころからころん(２) ページ8

９月のあの日から、

気付けば十年が経っていた。


新しい年が始まる度に

貴久の誕生日に赤ペンでしるしをつける。




友人たちが恋人をつくり、

家族をつくり、

出産する子が少しずつ増えて来ても、

私は一人。


本当は一人じゃない。

わかっていたから平気だった。


それに、側にいられない分

たくさんたくさん貴久のこと考えてたから、

きっと二人でいるよりもっと、

貴久のこと好きになった。



十年前、家の前で別れた数日後、

「貴久くんはアイドルになったらしい」と

母から聞いた。



だからだったんだね。


アイドルはみんなのものだから。


特定の人とはいられないんだ。



貴久らしいな。


ベッドの上で昔の二人を思い出しながら

眠りに落ちていた、

この街で過ごす最後の日。




ーーーーーーー




「貴久〜！そろそろ起きなさ〜い」


ライブ前の休日、珍しく母さんの声で起こされる。



「おはよ〜・・」


寝ぼけたまま居間に降りると、

台所で朝ご飯を作っていた母さんが目玉焼きを持って来た。



「Aちゃん、今日引っ越すみたいよ」


えっ？


慌てて窓辺に駆け寄ると、

隣家の前に小さなトラックが停まっている。



引っ越すってどこに？

どくん、と心臓が脈打つ。


聞いてないよ。

何も書いてなかったじゃん。



毎年誕生日に送り合うカードが、

俺たちの唯一の愛のしるし。



他のファンレターに紛れて届けられるAからの封筒。


つい二ヶ月前に届いたカードには、


”お誕生日おめでとう。

結成１０周年おめでとう。

ずっとずっと、大好きです。”


そう書かれていた。


いつものように添えられたAの写真は、

友達と旅行に行った時のものらしく

すごくすごく、楽しそうで。


Aの写真を貼ったアルバムは俺の支え。

どうして何も言わずに行こうとするの？


隣に住んでいるんだから、

ちらっと見かける事も

すれ違う事もある。


でも俺たちは決して立ち止まりはしなかった。


「傷つける」


それだけが怖くて。




「よお！」


何でもないフリして笑いかけることしか

俺には出来ない。


本当は話したいこと、山程あるけど。


抱きしめたい日だって・・

これは・・毎日だけど。



「元気？」


って向けてくれる

Aの笑顔が見たくて。


一瞬の笑顔。

それだけで胸がいっぱいになった。


いつか絶対、幸せにするよ。


A、どこに行っても、

待っててくれるよね？





(つづく)

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