僕の誕生日＜NEWS編＞

ころからころん(１)　＜増田貴久 7.4＞ ページ7

彼の口内で音をたてるあめ玉。


ころからころん。


その小さな音が好きだった。



あめ玉が伝う貴久のほっぺた。


「あ、こっち来た」


「今度はこっちだよ」



私がつつくと、


貴久はあめ玉を避難させる。



「あ〜っ、Aちゃんに取られちゃう〜」



細めた目が、楽しそうに笑うから。


私はこの先の未来を想像できずにいた。



「もー、ちょうだいよ！貴久のけち」



そうむくれて見せると、


貴久はやんちゃな男の子の顔になって、


少し開けた唇から、あめ玉を私の口に滑り込ませる。



「んっ、っ・・たか、ひさ・・」



あめ玉ごと溢れそうになる二人の涎。


一滴も零すまいと、必死だった。



貴久のもの何一つ、


失くしたくなくて。



「A、かわい・・」



貴久の口の中で蕩けたあめ玉は、


私の口で形をなくす。



「あ・・溶けちゃった」



見上げた顔は、満足そうに笑っていた。



こんなこと、貴久としかできないよ。



これから先もずっと。




私、想像はしてたんだ。


二人一緒の未来なら。




何度も何度も、


飽きる事なく。





ーーーーーーー





離れ難く家の前でつないだ指先は


昨日と変わらず熱いのに。




「あめ玉なくなった？もう一個、」


ポケットに手を入れると、



「もういいや」


って手首を掴まれる。



寂しそうな顔。





「・・もう、一緒にいられなくなった」



泣き出す５秒前、って顔した貴久に告げられたのは、


夢の様な夏休みが終わってすぐのこと。




貴久の意思じゃないのがわかったから。



「そっか・・」



目を伏せてそう言うことしか、できなかった。




握りしめた両手の甲に、


泣き虫貴久の涙が落ちる。




ぽたぽた、ぽたっ




「また、会えるかな・・いつか」



おっきな貴久の手に手を重ね、祈る気持ちで言う。




そしたら貴久が驚いたように顔を上げた。



真っ赤な目が、ウサギみたい。




「また、会ってくれるの？


俺のこと、待っててくれる？」


ウサギさんは、すがるように掠れた声を出す。




その声は、


今まで聴いたどんな声よりも、遠くに感じる。




「いつでも、貴久のこと、想ってる」


重ねた指を絡めると、


大好きな人の体温が流れ込む。




このまま全部、溶け合って、


貴久とひとつになれたら良いのにな。



あの日の、あめ玉と一緒に。





(つづく)

ころからころん(２)→←＜ちょっと！小山さん＞

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す