僕の誕生日＜NEWS編＞

君のせい(１)　＜増田貴久 7.4＞ ページ43

昔話を少し。


あの頃君は、純朴な少年そのもので。

負けず嫌いなとこは群を抜いていたけれど、ただ素直に、ひたむきに。

毎日を生きていたね。


「ねぇ」


「んー？」


「それ、僕のなんだけど・・」


「えっ？あっ、やべ、ごめん」

楽屋の畳に寝転がって雑誌を読んでいた俺が

座布団だと思って敷いていたのは、手越のパーカーで。

慌てて起き上がると、皺がついてぐちゃぐちゃで。


「もー・・今日下ろしたばっかりなのに・・」


「マジでごめん！」

それまであまり話した事のなかった手越がしょんぼりするのが可愛くて。

先輩の俺に笑顔を取り繕って「全然平気です！」とか言わないところが、

なんかいいなって。


そう思った。


それから幾度も、山を越え、谷を越え。

試練だらけの茨の道を歩いてきた。


もう駄目かもと思う日も、

いつも君は隣にいて。


笑顔で言ってくれた。


大丈夫。

まだまだいける。


頂は、もっと上にあるんだ。


まっすーとなら辿りつけるから。


諦めない先に、そこはあるから。


って。いつも。

だから、

君を好きになったことを後悔したりはしない。


この十何年の歳月を思いを告げずに生きてきたことを、

後悔なんてしない。


どんなに痛くても。

どんなに苦しくても。


君が隣に、いてくれるのなら。


ーーーーーー


「おはようございまーす」


「おはようまっすー」


「あれ、手越早いね」


「まぁね〜」

珍しく早く来ていた手越が、

本を読むでもなくただソファに座って、膝を抱えていた。


「なに？」

荷物を置いて上着を脱ぐ俺をじっと見つめる視線。


「え？何？」


「なんで見てんの？」


「いや、そこに動くものがあったら、普通見るでしょ」


「はい？」

よくわからない説明。

こいつ、熱でもあるのか？


「っ何っ？！」

つかつか歩み寄って手越の額に自分の額を合わせる。


持ち上げた前髪はふわふわで、

想像よりもずっと、柔らかかった。


「いや、熱あんじゃないかなって」


「熱なんかないよっ」


「そう？ちょっと熱いような・・」


「っもうっ！良いからっ！」


「ちょっと待てって」

離れようとする体をぐいっと引き寄せ、おでこの熱を感じる。


「まっす・・」

小さくなる声。


「やっぱないか」

離れると、顔を真っ赤にして目をぎゅっとつむった手越が現れた。


「手越？顔、真っ赤だけど」


「もー・・まっすー嫌いっ」

俺を睨みつけ、楽屋を出て行ってしまった。


(つづく)

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