僕の誕生日＜NEWS編＞

高値の花屋さん(1)　＜手越祐也 11.11＞ ページ36

「ええとぉ・・」


その人が楽屋に運んで来た花輪は、確かに高そうではあった。

色んな濃さのピンクの薔薇。

潔い程の、薔薇。


けれど、

「代金は、」と

請求書を見せられた俺は、目を丸くするより他なかった。


だってさ、自分の主演舞台の楽屋にだよ？

自分で花贈る人なんている？

いや、自分で手配してる時点で、”贈る”って表現自体間違ってるんだけどさ。



「どうかしましたか？」


黒い髪を後ろで束ねただけの、そっけないなりをした店員さん。



「あの、何かの間違いじゃありませんか？僕、頼んでないんですけど」


「えっ、本当ですか？手越・・祐也さん・・ですよね？」


「そうです。でも、」


花輪に、メッセージカードが挟まっているのが目に止まった。



”祐也くん、お誕生日おめでとう by・・”



「あちゃー・・」


そのイニシャルには、覚えがあった。

・・嫌がらせか。


ようやく合点がいき、仕方なく俺は財布を出した。



「あの、間違いなんじゃ、」


店員さんが戸惑って言う。



「いや、良いです。

せっかく綺麗なの作ってもらったし、俺今日誕生日なんで。

あなたからのプレゼントだと思って、頂くことにします」


嫌がらせに金を払うと思うのも嫌でそう言うと、


「えっ」


読めない表情で店員さんが言った。



「あの、でも高額ですし、間違いなんでしたらこちらで、」


「でもあなたも困るでしょ？

こんな高い花輪、他に貰い手もいないだろうし」


「いえでも、」


「良いから良いから！

俺そんなお金に困ってないし、そんなに気にしないで」


気を遣ってくれているのはわかったけれど、そろそろ舞台に集中したいし。


そう思ったから言ったんだけど、

俺の言葉に彼女は嫌悪感を抱いたみたいで。


「そうですか。では」


さっとお金を受け取って領収書を書くと、

バン！と乱暴に机に置いて楽屋を出て行った。



「手越ぃ、どうしたの？」


舞台を観に来てくれたまっすーがトイレから戻って来て、

ぼんやりしている俺と花輪を交互に見つめる。



「これ、誰から？」


「うん、花屋さん・・」


「花屋さん？」


「うん・・」


領収書に気付き、うわ高っけぇ！と目を擦るまっすー。


「でも綺麗だね。手越にぴったり」

花を見つめて笑う。


「そう・・かな・・」


嫌がらせだったはずの花輪が、

まるで本当に花屋さんからの贈り物のように感じた。


ちゃんとお礼言えば、良かったな。




(つづく)

高値の花屋さん(2)→←＜ほうほう加藤さん＞

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す