僕の誕生日＜NEWS編＞

あの日の先に(2) ページ25

翌日、取材の合間にAさんの車を見つけた。


そこはいつもの広場ではなく、スーパーの駐車場。

買い物をしているんだろう。


店長の取材を終えちらりと店内を見回すと、

カートを押すAさんの姿が目に入った。


「Aさ、」

声をかけようとすると、Aさんの隣りに人影が現れた。


嬉しそうにその男性に笑顔を向けるAさん。

そういう人、いたんだ。


背の高いその人と並んで

カートを押す姿はとってもお似合いで、

俺の入る隙間なんかないなと、息を吐いた。



ーーーーーー



「昨日は出張だったんですか？」

失恋したものの会いたい気持ちは抑えられず、

一日置いてAさんの店を訪ねた。


「あ、いえ、昨日は・・」

カウンターに座ったものの

ビールに手を付けずに俯くと、


「はい、今日はこれです」

キャベツの添えられた海老フライが差し出される。


「あ〜今日も美味しそう。

毎日新しい料理、練習してるんですか？」


湯気をあげる海老フライは、

家庭の匂いがした。


「そうなんです。

もうすぐ私、結婚するんです」


「・・結婚？」


「小山さん、軽蔑しないでくださいね？」


「え？」


「私、長い間、不倫していたんです。

でも、もうすぐ彼が離婚することになって、」

嬉しさを隠しきれないのかニコニコと話し始めるAさん。


「やっ、やめてっ」


「え？」

驚いたAさんが、料理をよそっていた手を止める。


「そんな話、聞きたくないです」

思わず本音がこぼれた。


「僕、Aさんが一生懸命働いてる姿を見るのが好きで、

美味しそうにお茶するお客さんたちを見る瞳が好きで・・

だから・・」


「だから？」

緊張した面持ちで俺を見る。


「だから、不倫とか、して欲しくな・・」


「そんなの、私の勝手でしょう？

小山さんになんの関係もないです」


「ありますっ！」


「小山さん、私に、何を期待しているんですか？」


「僕は、だから・・」

モタモタしているうちに、海老フライの湯気が静まってくる。


それに気付いたAさんが、

「ひとまず、食べてもらえませんか？」

そう言って車から降りてきた。


「これ・・小山さんのために、

作ったんです」


「・・・はい・・」

海老フライを頬張る。


「小山さんは、誰かに冷たくしたことありますか？」

広場に出した椅子に腰掛けて呟く。


「嘘なんです。結婚なんて」

笑顔は跡形もなくなっていた。




(つづく)

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