僕の誕生日＜NEWS編＞

終わらない夏(4) ページ16

Aの仕事が終わるのを、薄暗い通りで待っていると

店からガヤガヤと数人の女性が出て来た。


「A！」

その中の君は、元々の顔立ちに薄く加えた化粧が映えて

ますます綺麗だ。


女性たちが一斉に振り向いたもんだから

その迫力に少しビビったけれど、

俺はAをまっすぐに見つめて笑った。


俺の笑顔、結構人気あるんだけどどうかなと思いながら。


すると周りの女性たちがキャーと盛り上がり、

Aをこちらへ押し出す。


こういう時の女の子の反応は日本と変わらないんだな。


ゆっくりとこちらに歩いてくるAの手を取って

胸のところで絡めると、Aは顔を真っ赤にして俯いた。



こんな時。


キスする時。


再会した時。



確かにAの気持ちを感じるけれど、

答えをくれないのは・・と幾度も考えて。


でも結局、顔を見てしまうと

俺は考えることを放棄する。


なんでも考えたがりな俺にしては

珍しいけれど。



まあいいか。


また逢えるなら。


理由なんでどうでもいい。



「もう帰っていいの？」

耳元で小声で尋ねると、


「うん」

目も見ずに答えた。


同僚たちに手を振り、旧市街の通りを歩く。




「変わんないね、ここは」


緑豊かな通りのあちこちに小さな屋台が並び、

大勢の人が夜の街を楽しんでいる。


焼き栗ととうもろこしの屋台なんてのもある。

日本と変わらないな。


「シゲ、何しに来たの？」


何か食べようかと財布を出していると、

急に立ち止まったAが言った。


「え？何って、」


「私に何を求めてる？」


人が行き交う中、挑発的にも見えるAの姿は

俺を泣かせる。


この人は、

きっとひとりぼっちで、

自分を守ることに必死で。


何かに身を委ねることが怖いんじゃないか。


それはきっと、自分も同じ。


俺も怖い。

自分以外の何かに、飛び込んで行くことは

何よりも怖いよ。



それでも、


「一緒にいたい。

ただ、それだけ」


いくら俺を試して突き放してみても、

無駄だと思うよ。



「私日本に帰るつもりないし、

成亮のこと、」


隠してるつもりなんだろうけど、

泣くのを我慢しているんだとわかるから。



「A、俺のこと、好きになってよ。

俺、ずっと好きだよ。

どこにいたって変わらない。

Aのこと、誰よりも大切に思ってるよ」


ようやく瞳から、一筋の涙が落ちる。


「うそだ」

唇を尖らせる顔が歪んだ。




(つづく)

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