僕の誕生日＜NEWS編＞

ころからころん(５) ページ11

2014年7月3日

四人での撮影が終わり車に乗り込む。

「これからご飯行くから！」

手越の強引な誘いというか命令。


「俺もう帰りたいんだけど」

Aの行き先を掴めないまま、一年近くが過ぎていた。


今日手渡されたファンレターを家に帰って早く確かめたいのに。

車が急ブレーキをかけ、Uターンする。


「ちょっとマネ勘弁してよ！」

「すいません増田さん、今日だけは無理っす！」

どんどん家から離れる車に、抵抗するのも面倒になって身を任せた。



ーーーーーー



「着いたよまっすー！」

目を覚ますと、そこはつい先日歌番組の収録で来た波止場だった。


「なんでここ？」

キョロキョロしているとドアが勢いよく開く。


「ほらまっすー降りて！」

笑顔で手を差し出す小山の向こうには、レッドカーペット。


「なに、」

ぼんやりしたままストンと地面に足をつく。


「こっちだよまっすー」

波止場にはきれいにライトアップされた船が停まっている。


あの時と同じ船だけど、中に入ると懐かしい匂いを感じた気がした。


「あ、」

船内には大勢の友達と仕事仲間。

みんなドレスアップして「来たね〜」とニコニコ笑いかけてくれる。

もうすぐバーカウンターに辿り着きそうだと思った時、照明が落ちて流れていた音楽が消えた。


あれ、飲み物もらってないのに！

抗議しようとした俺の前に、小さな灯りと共にグラスが差し出される。


「あ、ありがと」

受け取ると、パッと照明が点いて俺は一人のバーテンダーと向き合っていた。

あちこちから聞こえるクラッカーの音に紛れて聴こえる、小さな声。


「誕生日おめでとう、貴久」

それは初めて直に聴く、Aからのおめでとう。


「A」


「まっすー、Aちゃん、おめでとう！！」

振り向くと三人が、ばばばっと俺たちを着替えさせる。


「じれったいからさ、この人」

シゲがAに向かって、最近覚えたウインクをした。


Aにドレスを着せて嬉しそうな小山に

「俺のタイミングがあるんだからな！」

と文句を言うと

「そう？じゃあ帰ってもらう？」

横から手越が口を出す。


もう、勝手なんだから。


ファンの皆にどう言おうかと言い訳を考えながら、

今まで見たことない顔したAにキスをする。


ヒューッ！と湧く歓声。

真っ赤なほっぺの俺の恋人が

恥ずかしそうに、俺の口にあめ玉を入れる。


「貴久、」

突かれたあめ玉も、嬉しそうにころからころんと、音をたてた。



fin.

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