続・さくら並木のセレナーデ

君の背中 ページ4

歌番組のイベントで二人、舞台に立つ日。

いつものようにそれぞれ違う衣装を身に纏う。


君は白いジャケットがとても良く似合っていて。

その背中に、君の全部が詰まっている気がした。


これで最後でも。

君と歌えて、俺は幸せだったよ。

もう隣で歌えなくても、

ずっとずっと、君の相方でいられたらいいのに。



「手越〜？」

廊下からいつもの声が俺を呼んだ。

楽屋で横になっていた俺は、慌てて起き上がり
服を整える。


ガチャッとドアが開いて覗く、まあるい笑顔。


「もう出番？」

何食わぬ顔で言ったけど、ほんとは今超具合が悪い。


「手越具合悪いの？顔白いよ」

眉を潜めて寄って来るから、俺は焦って立ち上がり靴を履いた。


今最高潮に熱が高いの。

触られたらまっすーにばれちゃう。

けど熱あるのに顔白いって、俺相当やばいかも。


「大丈夫だよ？ほら行こう！」

大きな背中を押して、無理矢理楽屋を出た。


「次は西川さんとテゴマスのお二人です！」

呼ばれてステージ横で待機する。


よし、ここまでくれば大丈夫。

この歌大好きなんだ。

この歌を歌うまっすーは、もっと好き。


そのまっすーを正面で見られるんだもん、
俺、悔いはないや。


そんな気持ちを知ってか知らずか、まっすーが小声で言った。


「この歌、また歌えて嬉しいね」

「うん、すっごい嬉しい！」

クシャッと目を細めて笑う君が愛しくて、思わず手を握った。


「ん？」

不思議そうに首を傾げる君。

どんな表情も仕草も、大好きなんだよ。

離れたくなんかないよ。


「精一杯歌うから、見ててね、まっすー…」


歌う時に人のこと見てる余裕なんてない。

そう言われるかと思ったのに


「うん、見てるよ。手越のこと」

真剣な顔で、まっすーは言った。


人一倍敏感な君は、俺の変化に気付いたのかも知れない。



精一杯歌うから見ててねだなんて。

手越がそんな事言うのは初めてで。

握られた手の熱さも、顔の白さも、怠そうな様子も全部、これは危険信号なのだと俺に報せていた。


でも…手越はいつだって自分の事は自分で決めるから。

そう思って黙っていようと思った。


いつもそうして来た。

どんなに体調が悪そうでも。

そうしないとずっと引きずるんだよ、手越は。


だけど…

"これで最後"

手越の背中がそう決意してる気がして。

俺は待ったをかけた。


それは困る。

お前の背中を、ずっと見てるって決めたから。

ずっと二人は、離れないから。


fin.

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