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__Koyama side. ページ31

きっと、シゲが手越の噛み跡を消したんだよね。
わかってたよ。俺。
シゲに言われる前から。

たまに、シゲの考えてることがわからない時がある。
長年ずーっと一緒で、親友で、シンメなんて言われてきたのに。
何回も何回も聞こうと思ってたんだ。どうかしたのかって。
でも、たまにシゲの見せるどこか儚げな、思いつめたような、悲しい表情を見ると何も言えなくなってしまう。

でもきっと、俺が聞いたところでお前は「なんもねぇよ」って笑うんだろうな。
そうして俺は、また何も言えなくなってしまうんだ。


「もう俺、わかんないよ…」


広いベッドの真ん中で、まるで夜中に親に怒られた後の子供のように、明日が来ることに怯えるかのように、自分で自分に大丈夫だよと、慰めるかのように。
膝を折って丸まりながら力強く、自分を抱きしめた。
ベッドのシーツに涙のシミを作る。


「大丈夫…大丈夫…俺らは…だいじょぶ…」


気がつけば、眠りに落ちていた。


『何に怯えてんだよ』

「シゲ…」

『そんな顔すんなって』


辺りには薄い薄い水平線が広がっている。
どこかで雫の落ちるような音がする。
それと似て、足を動かすたびにちゃぷちゃぷと涼しい音がする。
俺の向かいには白い服を着たシゲが立っている。
このシゲは俺に何かを伝えたくて出てきたシゲ自身なのか。
それともただ俺の作った夢の一部なのか。


「なんでシゲは…そんな顔をして笑うの?」

『んだよ、笑っちゃ悪いかよ』

「違うよ、なんでそんなに泣きそうなの?」

『泣きそうになってなんかねェよ』


シゲが儚げにははっと笑う。
しばらく見つめ合う。
シゲは一度だけ、深く深呼吸をした。


『なぁ小山、俺な』

「…シゲ?何?やめてよ…なんか怖いじゃん…」

『本当はさ』

「シゲ…?

『―――――――』

「ねぇ待って!聞こえないよ!行かないで!シゲ!!お願い!!」


シゲは俺に向かって何かを呟いた。
しかしその瞬間辺りは無音になって、響くのは俺の叫び声と、シゲに向かってダッシュする俺のちゃぷちゃぷという足音だけだった。


「シゲ!待って!!」


シゲの目の前まできた。
うっすら笑みを浮かべたシゲと目が合う。
俺が手を伸ばした瞬間シゲの目から涙がこぼれ、ゆっくり頬を伝ってぽちゃん、という音と共に水平線の一部となって消えていった。


シゲに触れる、というところでシゲの身体は俺の前からいなくなった。

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作者名:カミ | 作成日時:2017年2月5日 19時

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