82 ページ42
.
「どれかいいのあった？」
「え、」
.
美術館の出口に設けられた
お土産屋さん。
ステンドグラスのデザインの雑貨や
アクセサリーが置いてある一角で
私は足を止めて、じっ、とそれらを眺めていた。
.
「これとか、」
「・・・」
「Aちゃん似合いそう」
.
大切そうに飾られている
ペンダント。
丸いモチーフの中には、
複雑な模様が描かれていて
右下に赤い小さなハートが縁どられていた。
.
「かわいい、」
「ん？」
「きれい・・・」
.
ほぅ、っと息を吐く。
ちゃんと、大切にしてくれる人の元に届くといいな、と思う。
無駄に物を買わないのは、
たぶん心の底でそんなことを思っているからだ。
捨てられた私は、
多くを望むことを恐れている。
.
「貸して、」
「え？」
.
私の背中に寄り添うように立っていた櫻井さんが、
肩越しに腕を伸ばして、
そのペンダントを手に取った。
.
あの、と言葉を掛ける間もなく、
櫻井さんは会計を済ませて戻ってきてしまった。
.
「ほら、こっちおいで？」
「え、でも、」
「いいから、」
.
肩ごと引き寄せられて、
櫻井さんの胸がすぐそこに来る。
恥ずかしくなって顔を伏せた。
ひんやりと冷たい革の紐が首筋に当たる。
.
「似合ってる」
「・・・」
「ん？」
.
ふわり、と頭を撫でられて、
たまらなくなって声を出した。
.
「あの、わたし、」
「Aちゃんのだよ、それ」
「・・・」
「誕生日プレゼント、」
.
にっこり笑って、
そのまま頭に置いてあった手が、
私の右手を捕まえた。
.
「いこう、」
「・・・櫻井さん、」
.
大きな背中に、
そっと小さな声で声を掛ける。
振り向くときは、いつも優しい笑顔だ。
安心する。
.
「ありがとうございます、」
「うん、」
「大事にする、」
「はは、うん、」
.
ぐ、っと腕を引かれて
ようやく横に並ぶ。
繋がれた手が暖かくて、
泣きそうになった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 794人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
