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「お疲れさま、」
「こんばんは、」
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バイトが終わって、夜の10時。
櫻井さんは、時間が合えばこうやって私を迎えに来てくれる。
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「明日も学校？」
「はい、」
「ご飯食べに行く時間ある？」
「はい、」
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手を繋いで、
夜道を歩く。
いつも、櫻井さんが車道側。
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櫻井さんが連れて行ってくれるお店は
全部素敵で、
けれどそれでいて、居心地がいい。
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向かい合って座る、小さな個室。
ご飯を食べに行くと知っていたなら、
もう少し綺麗な格好をしてきたのに。
恋って、油断できない。
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「＿なにかあった？」
「え、」
「ぼーっとしてるから、」
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櫻井さんは、ワインに口を付けて
ゆっくり唇をあげて
優しい目で私を見つめる。
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「あ・・・」
「ん？」
「いや、櫻井さんとご飯を食べに来るなら・・・
もうちょっと、綺麗な格好してきたかったな、って。」
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私の言葉に、目の前の彼は
一瞬きょとん、として、
そのあと、くすり、と笑った。
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「なんで？可愛いよ、」
「いや、ダメです。今度から、油断しません、」
「油断・・・(笑)気にしなくて大丈夫だよ。
ほんとに、ちゃんと、可愛いから。」
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恋って大変だ。
仁とご飯を食べるんだったら、
服とかそんなの、全然気にしないのに。
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ああ、でも。
「家族」ができた仁とは、
これから、一緒にご飯を食べに行くなんて
できなくなるのかもしれない。
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ああ、
「家族」なんて
私にはもうできっこないのに。
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仁は今まで私のものだったのに、
私のものじゃなくなってしまうような感覚。
どうしてだろう。
「家族」なんて
どこの誰にでもあるものなのに。
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