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「・・・泣かないで、」
「っく、」
「Aちゃん、」
.
立ち止まって、道の端で
頬に親指を滑らせて、
涙の後を辿ってくれるそれが、温かい。
.
「連れて、帰りたくなるから。」
「・・・っ、」
「だから。泣かない、で」
.
あたたかい。
櫻井さんが触れたところから順に、
熱が広がって行く。
.
「泣いてる女の子、家に連れて帰るなんて。
そんなの、ルール違反だから、」
「っく…ふ、」
「Aちゃんのこと、大事だから。」
「っ…」
「だから、泣かないで…」
.
ああ、なんて素敵な人を。
私は、好きになったんだろう。
.
ふるふる、と首を横に振ると、
櫻井さんは困ったように眉を下げて笑って、
口を開いた。
.
「……かえろうか、」
.
ぐ、と繋がれた手を引っ張られて、
見慣れた道を通る。
駅はすぐそこで、
ただ、何時もと違ったのは、櫻井さんが一緒に
同じ改札をくぐったことだった。
.
帰宅ラッシュでぎゅうぎゅう詰めの車内は、
いつ乗っても落ち着かない。
扉の隅に私を置いて、
櫻井さんが回りから囲むように、私の目の前に立つ。
.
いつも私が乗る電車と反対方向のそれと気づいたのは
普段聞かない降車駅が車内アナウンスで聞こえてきたときで。
.
見上げれば、見下ろす大きな瞳。
それが、優しく細められて、
けれど少し動揺したように、瞳が揺れた。
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