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「んふふ、なんか不機嫌？」
.
む、と口を一の字に結んだら、
それを見て大野さんが笑ってコーヒーに口をつけた。
食べなよ、って指さされたのはお皿に乗ったチーズタルト。
.
む、と不機嫌に結んだはずの口は、
さっぱり甘いそれを入れたら自然と緩む。
それを見ていた大野さんが、くく、と楽しそうに笑う。
.
「おいし？」
「おいしい…」
「んふ、素直(笑)」
.
にこにこしながら白いカップを傾けるその笑顔は、
さながら私のお兄ちゃんみたいで。
.
「翔くんにも、素直になればいいのに、」
.
＿翔くん＿と
突然出てきたその名前に、
「誰ですか、それ？」と返したら、
びっくりしたように目を見開いた後に、くは、と笑った。
.
「Aちゃんの、カレシでしょー？」
「え？…櫻井さ…って、え？」
「んは、テンパってる、んふふ(笑)」
.
そういえば、彼の下の名前なんて、余裕がなかったとはいえ、
仮にも恋人、という立場なのに知らない自分自身に驚くけど、
それよりなんで大野さんが私と櫻井さんの関係を知ってるの…
というより、なんで大野さんより10も年上の彼のことを、
＿翔くん＿なんて、そんな仲よさそうに呼んでるの…
.
不思議な人だと思ってたけど、
ますます不思議な人だ。
.
「昨日も来てたよ、」
「え？昨日？」
「うん、Aちゃん休みだよー、って言ったら
″知ってます″って言ってたけど。」
.
それは、私が。
休みだって、伝えていたからで。
.
「素直に会いたいって言えばいいのに、ふふ」
.
きっとすっかり冷めてしまったであろうコーヒーを飲みながら、
心底楽しそうに笑って言う。
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