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「もうすぐ七夕だよね、」
「あぁ…そう、ですね、」
「天の川観に行かない？７日、」
「っえ…？」
.
思わず隣を歩く櫻井さんの顔を見るけど、
目線は前を向いたままでこちらに向けられることはなくて。
.
つられて私も、目線を下に落とした。
灰色のコンクリートが、歩幅に合わせて流れていく景色は、
なんだか味気なくてつまらない。
.
黙ったまま歩き続ける私に、
少し困ったような声が降ってきた。
「えっと…デートのお誘いなんだけど……いちお、」
「…え？」
.
思いがけない言葉に、
思わず立ち止まる。
.
私は、大人から与えられる愛情に疎い、
それが男性だと尚更の話で、
それは自分が一番、よくわかってる。
.
それに、私はまだ子供のただの大学生で、
相手は36歳の社会人で、立派な大人で。
.
20歳になって、世間一般的に″大人″と言われるけれど、
私が、一流企業のトップに立つ彼に釣り合う人間だなんて、
これっぽっちも思えない。
.
なのに、″デート″？
返事に困っている私を見て、彼はますます困ったような声で、
「っじゃぁ！お出かけ！…お出かけなら、いいでしょ？」
.
と、言うから。
なんだか、可笑しくなって。
少し焦ったような彼を、初めて見た気がしたから。
.
「はい、…お出かけ、なら。」
.
小さく、頷いたら
よかった、と息を吐くような声が聞こえて。
.
やっぱり、可笑しくて笑ってしまう。
.
「…なに(笑)」
「っふふ、ううん、なんでもないです、」
「笑ってんじゃん(笑)」
.
だって、ね。
まさか、こんなに可愛らしい人だなんて思ってなかったから。
まさか、一回り以上歳の離れた男の人と、
こんな風に、隣を歩いて話すなんて、思ったことなかったから。
.
なんだか、楽しくなったの。
荒んで冷たくなったはずの私の心は、まだ…
少しだけ、暖かいところが、残ってるんだって。
.
嬉しくなったの。
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