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薮は、夏が嫌いだ。
「さっむ、....」
シーツを体に巻き付け、ズルズルと引きずりながらリビングに向かう。
「いないし....」
部屋の冷房の設定温度は18度。
まだ朝の6時。気温はそこまで高くない。
散らばった布を適当に拾って集めて、洗濯カゴへ。
代わりに、干してあった服を着て、冷房を止める。
夏は、日が昇るのが早い。
だから、起こされるのも早い。
またこの季節がやってきた。
薮は、またこの季節を乗り越えなきゃいけない。
部屋には、線香の匂いがふわりと舞っていた。
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「....いた、」
静かな朝の海。
膝まで浸かって、佇む後ろ姿を見つける。
そのシャツ、昨日着てたやつじゃん、なんて。
そんなことはどうでもいい。
「やぶ、」
近くまで行き、海には入らず、名前を呼ぶ。
ピク、と肩が揺れ、ゆっくりとこちらを向いた。
あぁほら、泣きそうな顔 してる。
「起きたんだ」
「あんな寒かったら嫌でも起きるよ」
「....ごめん」
「.......今日最高気温35度だって。」
「....そう。....暑いな」
ふ、と少し口角をあげた薮は、また前を向いてしまった。
果てしなく、何処までも続く海の向こうを。
「ねぇ、やぶ、」
「ん」
「....もう、いいんじゃないの」
視線の端を、小さなカニが横切る。
朝の潮風が、二人の髪の毛をふわりと揺らす。
薮の手が、ぎゅっと強く握られる。
「もう5年だよ」
「....わかってる」
5年。
薮の弟が死んでから、5年。
「大ちゃんが泣いちゃうよ」
「...」
"海つれてって"
そう強請った大ちゃんに、薮は頷いてやらなかった。
"また今度な"
そう笑って。
でも、大ちゃんは
「夏が来ると、絶対言うんだよ、連れてって、海行きたいって」
「うん、」
「でも、一度も 連れてってやれなかった」
知ってるよ。
大ちゃんはいつもあの白い部屋からこの海を眺めているだけ。
それだけで、人生を終えてしまったんだから。
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mapii(プロフ) - ななこさん» ななこさんありがとうございます♪感情移入してもらえるお話がかけて満足です(*^^*)とても切ないお話になってしまいました...。続篇ありますので、よければ覗いて見てくださいね (2018年6月17日 22時) (レス) id: bd8e1618ab (このIDを非表示/違反報告)
ななこ(プロフ) - カクシゴト、カクサレゴト切なすぎます〜〜(;_;)特に光さんが……いのちゃん守りたかっただけのに…何でこうなってしまったんだ…ていう気持ちになりました。光さんに感情移入してしまいました。 (2018年6月13日 17時) (レス) id: 3aa19a7d29 (このIDを非表示/違反報告)
柊(プロフ) - いつの間にかファンになっていました、いつも楽しく読ませていただいてます!更新されたせかいでいちばんなのですが、誰の曲を元に作った話なのですか?とてもキュンとしました!これからも楽しませてください! (2018年5月6日 0時) (レス) id: f1b28b9ed0 (このIDを非表示/違反報告)
mapii(プロフ) - 白米プリンスさん» 白米プリンスさん、いつもありがとうございます(´▽`*)素敵ですよね、感謝です...。一度駆け落ちって使ってみたくて、こうなりました(´>∀<`)ゝこれからもよろしくお願いします^^* (2018年4月7日 11時) (レス) id: bd8e1618ab (このIDを非表示/違反報告)
白米プリンス(プロフ) - 待ってました(^^)mapii様の短編集…!タイトルもとても素敵ですね(*^^*)駆け落ち…良い響きです笑全てを失ってでも雄也君が欲しい慧ちゃんが好きです…! (2018年4月6日 15時) (レス) id: 8c7dfe77a3 (このIDを非表示/違反報告)
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