贖罪として ページ1
俺のせいで犠牲になった人。
最初の人は、母親だった。
俺と買い物に出かけている時に、拉致されそうになった俺を庇い、敵が発砲した流れ弾に当たった。
即死だった。
今でも、あの時の記憶が鮮明に頭に焼き付いて離れない。血の匂いと、温かい身体が、冷たくなっていく、あのなんとも言えない、そこ知れぬ闇に落ちていく感覚。
それから暫くして、俺は自分の組で仕事をしていた。年齢は、……15とか、その辺だったか。
その時に、よくしてくれていた兄貴分のような人を亡くした。それもまた、俺のせいだった。車事故に見せかけたひき逃げに、俺を庇い死んでいった。
俺は、守られる立場から逃げ出したくて組に入ったのに、何故こうなった？
震える手が止まらなかったのを覚えている。
親父に言われた言葉も鮮明に思い出せる
「力だけでは守れない。全てに平等に強くなれ」
俺のせいで妻を亡くし、部下を亡くした父親は、それでも俺に強くなれと言った。この残酷な世界で生きて、生き抜いて、お前が率いて行け、と。
失うものの方が多かった。
苦しかった、つらかった。今にも投げ出してしまいたいことばかりだ。だが父親から継いだ俺が、組のトップにいなければ、路頭に迷う命がそれこそたくさんあった。だから俺は逃げられない。兄貴分を失ったあの日から、いや、母親が目の前で死んだあの日から、俺はずっと贖罪のために生きていた。
失うのは怖い、なら失わないように、失ったとしても恐怖を感じないように。俺は大事なものを作るのはやめた。家族も、友人も、全てだ。義務である学校には通い、知性をつけるため大学には通った。
「よろしく頼む」
厄介な課題で一緒になった男がいた、眼鏡をかけた知的な男だ。
「なかなか面倒な課題やで。他学部とも合同なんて」
「せやな」
「俺の知り合いにデザイン学部のやつがおるわ、ソイツをチームに入れるのはどう？」
「任せる」
そんな会話しかしなかった。踏み込んでくるな、俺も踏み込まない。最低限の関係を保っていたかった。
しかし、ある日
「何をそんな、怯えてんの」
兄さんとみんなに呼ばれる男は、そう言った。
「1人でおるのも、誰とも仲良くならん一匹狼なんも、逃げてるみたいやで」
何がわかる、お前に何がわかる。
のうのうと育ってきたお前が、一体何を理解している？俺の何を。これは自衛だ、俺の為だ。そう言い聞かせてきた。壊すな、この状況を。
「なんも始まらんやろ、そんなん」
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2227人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
花奈 - 更新再開されてとっても嬉しいです！！！！！今後も楽しみにしてますTT (2021年6月21日 18時) (
レス) id: b9fb555fa9 (このIDを非表示/違反報告)
海猫 - 全部一気に見ました！神作品ありがとうございます!これからの投稿も楽しみにしてますね! (2021年3月21日 13時) (レス) id: ecd79149f7 (このIDを非表示/違反報告)
いちご - とても面白いです！！誤字を指摘させていただくのですが『スイスとオーストラリア』ではなく『スイスとオーストリア』ではないでしょうか。違ったらごめんなさい。応援しています！！ (2021年3月20日 21時) (レス) id: 148d6a46f2 (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆゆ(プロフ) - 全部一気に読んでしまいました…。本当に最高です！もう語彙力がなくて私のこの感情を作者様に伝えることができないのが本当に申し訳ないと思うほどこの作品は素晴らしすぎます…無料で読んでよかったんですかこれ…。本当にありがとうございました…感無量です… (2020年12月21日 16時) (レス) id: 1e1f442bdf (このIDを非表示/違反報告)
よこはま(プロフ) - ムニエルさん» ムニエルさんありがとうございます！全員実る世界線書くつもりなので最後までよろしくお願いします！ (2020年7月8日 19時) (レス) id: 51d00fe6bf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
