97.ｰ東都湾岸署へLet's Go!!ｰ ページ10
＊＊＊
「海は広いなー大きいなー月がのぼるしー♪」
あぁ……とAは項垂れた。子供達のとても、元気で大きな歌声が脳に響く。寝不足で聴覚過敏気味になっているAにとってこれ以上の拷問はない。こんなにも恨めかしく思える童謡【海】は初めて聞いた。
気分転換、と言うよりは音の逃げ口を確保する為に窓を開ける。潮風が優しく頬を撫でる。晴れ渡った空の色をそのまま溶かしたような淡青色の海が車窓の外から覗いていた。
Aの様子を気に掛けていた降谷が「車酔いでもしました？」と心配の色を滲ませて問うてくる。
「いえ、そうじゃないんですけど……最近寝不足気味で。何だか夜泣きする赤ちゃんを世話する母親になった気分って言うか」
「あぁ。子供達、楽しく歌ってますものね」
「楽しそうで何よりなんですけど、今の私には辛いかな」
「まあそう言わず。おっと……！」
苦笑いを浮かべた降谷は不慣れな左ハンドルに先程から悪戦苦闘している。左ハンドルな上に借り物の高級車な為運転に必死だ。最悪、車は傷物にしてもいいが、事故だけは避けて欲しい。子供達が乗っている。
ちなみに降谷のRX-7とAの愛車は補助席を使っても子供達全員を乗せられなかったのでお休み中である。この車は大金持ちの鳩宿から拝借してきた。
「楽しみだねっ！」
「いっぱい勉強して、いっぱい遊んで、いっぱい食うぞっ!!」
「食べ物は期待しない方がいいと思いますけど」
「うな重ねぇのか!?」
「あるわけねぇだろ、バーロ」
相変わらず子供達は一名を除き、盛り上がっている。後部座席に振り向くと会話の間に鋭いツッコミを挟むコナンがポスターを平げて目次欄を眺めていた。Aはそのポスターの見出しを読んでもう何度目かの溜息が出そうになった。
【東都湾岸警察署ー春の交通安全運動!!ー】
ポアロで和気藹々と計画を練っていた子供達の姿は微笑ましく見守ったものだが、まさかこのイベントにAと降谷を誘ってくるとは予想もしなかった。……身バレフラグが全立ちだ。降谷に今度こそ警察官だとバレる気がする。
(あぁ、どうしよ)
そして記憶は2時間前に遡る。
･
･
･
『Aお姉さん、こんにちはー！』
喫茶店ポアロの扉を開けると元太･歩美･光彦の三人が元気溢れる挨拶を、コナンが「こんにちは」と軽く会釈をして三人とは違い、控えめな挨拶を送ってくれた。
店にはその四人と店員の梓と初めて見る人──おそらく店のマスターであろう方がおり、その他の客は見受けられなかった。 他の客が見当たらないのは朝と昼の微妙な境目の時間帯だからだろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1759人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
カリリン - とても、いいお話です！ (2022年9月12日 22時) (
レス) id: ff3a9a5512 (このIDを非表示/違反報告)
カリリン - 続きが気になります。お願いします。 (2022年9月12日 22時) (レス) @page31 id: ff3a9a5512 (このIDを非表示/違反報告)
笑福(プロフ) - 絵理奈さん» カタツムリより遅い速度で少しずつ進んでおります(--;)仕事が終わると直ぐに眠りこけてしまうので中々執筆出来ない状態が続いており本当に申し訳ないです……。 (2019年9月5日 0時) (レス) id: 21be2ba57f (このIDを非表示/違反報告)
絵理奈(プロフ) - お話まだ進まないですか？ (2019年9月4日 8時) (レス) id: e2382ac4cf (このIDを非表示/違反報告)
笑福(プロフ) - (名前)りんくらさん» 書き直しが一応完了したのでお知らせします(*^^*) (2019年4月11日 3時) (レス) id: ee011761e8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：笑福 | 作成日時：2018年11月24日 0時
