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『死んだ?』
『“車に飛ばされた時打ち所が悪かったみたいでさっき集中治療室で亡くなったの”』
『…………。』
暗澹な気持ちを捨てきれないまま当時の自分は流れてゆく時を過ごしたと思う。そんなある日学校から帰宅すると玄関に見慣れない革靴が二対揃えられてあった。
客間から母の、怒りを押し殺している様な低い声が漏れ聞こえてきた。俺は気付かれないように襖の隙間から中の様子を伺った。
『──さん。あれは交通事故じゃありませんよね。上層部は、公安は何を隠しているんですか』
交通事故ではない、母ははっきりとそう言った。なら叔父の死因は?
『それは言えない』
細い隙間から目を凝らして両親と対峙する人物の顔を確認した。今は年月が経ってその人物の顔に靄がかかってはいるが何となくは思い出せる。
母の問いに答えた人物は奥の方に座っていた。まずは手前に座っている男を先に見た。手前の男はそれが癖なのか頻りに手を握ったり開いたりする動作を繰り返していた。
横に幅広そうな身体付きだが、決して太っている訳ではなくしっかりと筋肉がついている印象で、横顔は頑丈そうな顎に濃い太眉が特徴的だった様に思う。一見勇ましそうだが、何だか頼りなさそうなイメージもあった。
『敦史君は何に巻き込まれたんですか』
『……知らない方がいい。貴方達まで巻き込む訳にはいかないんだ』
奥側に座る男はスっと背筋を伸ばした美しい正座姿で堂々とした態度で両親を見据えていた。全身黒ずくめだった。黒い髪に黒いスーツ、黒縁の眼鏡。黒黒黒……。そして日本人離れしたとても端正な顔立ちは子供の自分が魅了される程だった。
警察官になってから何度かこの男が誰かに似ていると思ったのだが中々思い至らないでいる。記憶の中の男が眼鏡のブリッジを押し上げる仕草も既視感を抱いているのだが。
『あれはただの交通事故。運が悪かったんですよ、彼は。偶然起きた悲劇だったんだ』
『交通事故?まだそんなことを!!』
その後も両親と警察関係者と思われる男二人組の問答は続いていたが父に覗き見がばれて追い払われてしまった。
『裕兄ィ。“黒い鳥”って何だと思う?』
『黒い鳥?』
『うん。この言葉だけずーっと頭に残っているの。でもどういう意味を持つものなのか分からなくて』
『黒い鳥──カラス……?』
カラスは不吉の象徴。
死を運ぶ鳥。それにある組織のシンボル。
──次の記憶は一人で叔父の墓場に行った時。あの時の二人組の男達が墓に手を合わせていたのを見つけ隠れて様子を伺ったことがある。その時の言葉が一番引っかかる内容だった。
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カリリン - とても、いいお話です! (2022年9月12日 22時) (レス) id: ff3a9a5512 (このIDを非表示/違反報告)
カリリン - 続きが気になります。お願いします。 (2022年9月12日 22時) (レス) @page31 id: ff3a9a5512 (このIDを非表示/違反報告)
笑福(プロフ) - 絵理奈さん» カタツムリより遅い速度で少しずつ進んでおります(--;)仕事が終わると直ぐに眠りこけてしまうので中々執筆出来ない状態が続いており本当に申し訳ないです……。 (2019年9月5日 0時) (レス) id: 21be2ba57f (このIDを非表示/違反報告)
絵理奈(プロフ) - お話まだ進まないですか? (2019年9月4日 8時) (レス) id: e2382ac4cf (このIDを非表示/違反報告)
笑福(プロフ) - (名前)りんくらさん» 書き直しが一応完了したのでお知らせします(*^^*) (2019年4月11日 3時) (レス) id: ee011761e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:笑福 | 作成日時:2018年11月24日 0時