スクエア■ツインズ(やぶひか)完結

10 ヒカには優しい薮 ページ10

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「裕翔ってさ、なんか頼もしいんだよな。ちょっと腹立つ、高校生のくせに」

　軽口に紛らせて、笑いながら本心を伝えた。


「なんだよ。褒めてくれたのかと思ったら、高校生のくせにってのは、いらないって」

「あははははっ」


　大きな手の温もりが本当に頼もしくて嬉しかった。







　薮の家は赤坂では名の知れた名家で、広大な敷地に建つ格調の高い洋館は近隣でも特に目立っていた。

　外門から玄関までは長い石畳があって、その奥には明治時代に建築されたゴシック様式の洋館が建っている。

　屋敷に一歩入ると、まるで映画のセットのようなレトロな内装と調度品が見事だった。

　玄関の中央には螺旋階段が二階へと続き、壁は真っ白な漆喰で、吹き抜けの天井にはステンドグラスが陽の光を通して輝いていた。


　そんな薮家のメイドは基本は三交代制で、先週、夜に入るメイドを募集していた。

　薮家の当主、薮の父親は現在ドイツに単身赴任中で、母親も多忙で、たいてい家で食事をするのは一人息子の宏太だけだった。

　だから夜のシフトのメイドは、彼の夕食を作るのが一番の仕事と言える。


　近くのスーパーで食材を買って帰ったヒカは、さっそく薮に教えてもらって従業員の部屋に入った。





「ねぇやぶぅ…見て見て。俺、似合ってる？」


　従業員控え室のロッカーにあったメイド服を、ためらいもなく着て出てくるヒカを見て、薮は目を見張った。

　シックな黒の膝丈ワンピースと、フリルのついた白いエプロン。


「へぇ、ヒカが着ると本当にメイド服がヤバく見えるんだな」

「やぶぅ、ヤバく見えるってなにが？ ふふふっ、でも嬉しい」


　メイドブームのせいで、日本では多少の誤解を招いているが、メイド服は十九世紀のイギリスではれっきとした使用人の制服だった。

　薮家でも、三十代と四十代のメイドがいて二人ともこれを着ているが、薮自身は幼少期から見ていたこともあって、メイド服に萌えを感じたことは一度もなかった。


「ヒカは本当に可愛いなぁ、似合ってる。でも無理に着なくてもいいよ。男性用の服も用意があるから、それを着たらいい」

「どうして？ 俺のメイド服、似合ってない？」


　ヒカが嬉しそうだから、薮はそれでいいと思えた。

　もしかしたら薮家の使用人頭は、ヒカのことを女性だと勘違いしてメイドに採用したのかもしれない。



「似合ってるよ。すごく」


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