12 ページ12
.
薮がわずかの間、呼吸を止めたことを、ヒカは気づいてしまう。
「ねぇ、答えてよ…やぶぅ」
人が真剣に考え事をしている時は、瞳の動きでわかるそうだ。
「は…? まさか、んなわけないだろう? 俺と光は、単に腐れ縁ってだけだって」
「そっか。ならよかった」
「なにが?」
「俺、やぶが好きだからさ」
「そっか、ありがと。俺もヒカが好きだからな」
特別な意味を込めて伝えたのに、軽々しく「俺もだ」なんて答えられて、ヒカが不満そうに頬をふくらませる。
「その顔、可愛い」
薮に褒められたら嬉しいはずなのに、今のタイミングならまるで、はぐらかされているような気になった。
「なぁ、やぶぅ…あのさ…」
ヒカがうつむいて言葉を選んでいたとき、足元にするっと触れる、やわらかい物体に気づいた。
「うわっ! え? なに?」
背筋がゾッとする。
「あぁごめん。言ってなかったっけ? うち、猫を飼ってるんだ。結構俺に懐いてて可愛いんだ。ほら、紹介するよ」
薮が立ちあがって猫を手招きする。
「ぅっ…わぁぁぁ!」
猫は一旦、ソファーの上に飛び上がると、今度はヒカめがけて飛びついてくる。
だからヒカはとっさに、薮の腕の中に飛び込んだ。
「やだっ。やだぁぁあ」
驚いたのは薮だった。
世の中に、可愛い猫を嫌いな人種がいるなんて信じられないようだ。
「え? ヒカ? 大丈夫か? なに? ヒカは猫が怖いの?」
両手を背中にまわしてきつく抱きつくヒカの頭を、薮はなだめるように撫でる。
「うん。ごめん、俺…猫ダメなんだ」
「なんだ。そこも光と一緒なんだな」
涙目で見あげてくるヒカは本当に愛らしくて、薮は全力で護ってあげたい気分になる。
「やぶぅ…」
励ますように笑って、頭をポンポンと軽く叩いてから身体を離した。
「ほら、もう猫はあっちに行ったから大丈夫」
「ほんと?」
「あぁ。でもな、メイド服を着たこんな可愛いヒカにこれ以上くっつかれてたら俺がヤバイからさ、ほら…」
紳士的な薮を、ヒカはある意味、恨めしげに見あげる。
「………」
「ふふっ、ヒカは本当に可愛いな。でも、メイド服はマジで俺がヤバイから、明日からもう着なくていいよ。男性用の制服もあるから、そっちを着るといい」
いつだって沈着冷静な薮は、感情を露わにすることなんてあるんだろうか?
一度でいいから、そんな危ない目をした薮を見てみたい。
.
249人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ねね子(プロフ) - しろくまさん» 最初から読み返してもらったなんて嬉しいけど恐縮。ありがとうございます! 誤字脱字などすでに色々直したい所が山盛りなのに放置してるの恥ずかしい(笑)次回作のオメガ光くん、色々と萌えを練り込みながら楽しんで書けたらなと思ってますo(^-^) (2019年3月18日 23時) (レス) id: c981404cfd (このIDを非表示/違反報告)
ねね子(プロフ) - 藍さん» こちらでもありがとうございます。後日談もすごく書きたいのですが、まずはジゴロを終わらせないとですね(汗)でもありがとうございます。藍さんの作品も今読ませてもらいましたよ♪作品、頑張って下さいね(@^▽^@)/ (2019年3月18日 23時) (レス) id: c981404cfd (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - ねね子さま、完結おめでとうございます。最初から読み返してやはりねね子さまのやぶひか最高…と悶えています。ゆと君も可愛かった…。甘くて苦い、初恋にふさわしい素敵なお話でした。いつもながらありがとうございます。新連載も楽しみにしています(#^.^#) (2019年3月18日 19時) (レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
藍(プロフ) - 初コメ失礼します!まず、完結おめでとうございます。作中ずっとニヤニヤしながら読ませていただきました。(後日談みたいな、続編も見てみたいなんて……)これからも執筆頑張って下さい♪ (2019年3月18日 8時) (レス) id: df207c3009 (このIDを非表示/違反報告)
ねね子(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございます(*^▽^*)/ このあとはピッチを上げて、ラストまで突っ走ります。でもそろそろ新しいお話書きたくなってるけど、最後まで頑張りますね(笑 (2019年1月23日 14時) (レス) id: c981404cfd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ねね子 | 作成日時:2018年11月9日 23時