痛いの痛いの飛んでいけ【男主】

来室者No.3 ［吉野おいなり君］ ページ10

「A、しくじったから来た」
「なんつー口上だよ。詳しく話してみ」


酷く落ち込んだ様子で扉を開いた吉野に話を聞くと、どうやら漫才中に床に倒れ込んだ際(大事なネタの一部のため安心して欲しい)、受け身に失敗して突き指をしたらしいことが分かった。


「というわけで、ネタも指もしくじりまして」
「冗談言ってねえで座れ……」


おずおずと差し出された左手を掬い上げて状態を見ると、人差し指に腫れが見られた。テーピング材を取り出して中指と固定する。


「あ、ちなみにこの後ライブ無い」
「了解。それなら丁度良いな。固定したまま患部冷やして暫く安静にしよう」
「ありがとう」


氷のうを指にあてがうと冷たい、と声を上げる吉野。


「悪い、驚かせた」
「大丈夫。今A仕事ある？」
「もう終わる所〜、なんか話すか？」
「本当！あのさ、ずっと言おうと思ってたんやけど……正直白衣姿のA推せ過ぎるわ」
「……は？」


パッと顔を上げて俺に身体をずいと寄せて話し始める吉野。
元気だな、こいつは。


・


「……あ、もう痛くない」
「お。それは良かった」


吉野の「来夢A推せ過ぎる問題」という議題に付き合って数十分。
体温で溶けた氷を替えようとすると元気よく立ち上がった。


「明日もライブだろ？腫れが悪化したら心配だから気になることあったら連絡すること。無理するなよ」

「うん、ありがとう。Aの良さについて語れて元気出た」
「そうか。本人に語るのはやめて欲しいけどな」


「好きな気持ちは、ちゃんと言葉にした方が良いかなって」


そう、だけれども。
君のそれは猪突猛進すぎるんだよ。

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