激昂 ページ10
「ぐ……っ」
片目に架かる十字の傷跡が特徴的な男だった。
少しは食らわせられたかと思ったが、小さく呻いてよろけるだけに留まってしまう。
「怪人狩りの援護でもしたつもりか？…何者だ」
「名乗る義理なんてない」
男の奥で呆然とこちらを見ているガロウを気に掛けつつ、キッパリとそう言った。すると男の目付きは途端に挑発的なものに変わる。
「ほう…やはり貴様も彼奴の仲間だな。
このデスガトリングに消されるか？」
含み笑いがやけに鼻についた。さっきまで必死で応戦してたくせに。
「仮に私を消したところで、アンタの望むような“利益”は得られない。S級に何の恨みがあるのか知らないけど、愚かしいよ」
煽れるだけ煽ってみたが、再び男の雰囲気が激変した。
「煩い」と一言呟き、サバイバルナイフを懐から抜いたのだ。
「…何がS級だ…俺達だって戦場で命を燃やして戦うヒーローだ 今ヒーロー狩りを追い詰めているのは、A級ヒーローのデスガトリングだ！！」
決意表明さながらに声をあげて襲い掛かってくるのを、軽く防御姿勢を取りながら見ていた。
目前のガロウが、ものすごい形相で男に飛び掛かるのも。
結論から言うと、男はガロウによってボコボコに叩きのめされた。
程なくして、男による銃弾の雨のお陰で半壊してしまった小屋へ向かう。
縮こまっている少年は、きっとお礼を言うのだろうと思った。
「ひ……うわあああっひゃああああ」
全くの逆だった。
少年はガロウを見るなりヘタクソな笛みたいな悲鳴をあげて、走り去っていった。
「おい」と止めて上げかけたその手が、ひどく心を痛ませる。
「子供だからって、ああも残酷で良いの？」
思わず大人げのない言葉が口をついて出てしまう。
「あァ？…ガキなんてあんなもんだろ。別に礼とか言わせたかったんじゃねぇしよ」
いつの間にか隣に立っていたガロウは、背中に刺さった矢を引っこ抜きながら何でもなさそうに答えた。
…でも、違う。
彼には彼の考え方があるだろうに、誰も肯定なんてしようともしない。聞こうともしない。
立ち位置が変われば、正義は牙を剥くのに。
自分の信じた“正義”ほど、信じられないものはないのに。
誰もそれに気付かない。
だからこうやって一方的に責められたり、集団心理に左右されるのだ。
幼い頃にそれを理解したガロウを、誰かが受け入れるべきなのだ。
彼はまだ独りで生きるには早すぎる。
「ね、ガロウ。」
「…なんだ？」
「私も一緒に生きちゃダメかな」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 48人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：楓 | 作成日時：2019年12月29日 1時
