悪夢2 ページ9
出て来てしまった彼を見て、ひゅっと掠れた息を呑む。
少し前まで走っていたので、息が切れてそうなったのか、単なる驚きか。
─そんなのはどうでも良い。
『中にガキがいるんだ』と小屋を守ろうとするガロウに、聞く耳を持たないヒーロー。
あまりにも残酷で単純な絵面だった。
私は常々思っていたが、ヒーローを名乗る人間は、揃いも揃ってガチガチの固定観念を持った者ばかりだ。
何の影響を受けたのか知らないけど、多分それぞれハッキリと『正義』『悪』の定義があるのだろう。
けれど、私にはそれが分からない。
一方向にしか通用しない『正義』を掲げて、何がそんなに誇らしいのか。
しかも彼らは見ている限り、単なる己の利益の為にガロウを仕留めようとしている。
時々『それっぽいこと』を並べてはいるが、要は自分が昇格したいだけ。
沸々と怒りがこみ上げるなかで、いよいよ戦いが始まってしまった。
あれだけ手負いの状態でも、ガロウは強かった。
常人には到底及ぶ事のない頭の回転での状況判断、機転の利かせ方、相手の戦法掌握──
どれを取っても彼ら一個人の実力を大きく上回っている。
流水岩砕拳を用いての攻撃のいなし方も、才能としか呼びようがなかった。
重火器を持つ最後の一人と対峙しても尚、ガロウは小屋を守り続けている。
私は何をしている？
…私は、観戦しに来たんじゃない。あのままではガロウが死んでしまう。
とすれば、あの男を攻撃するしかないか。
気配を消して距離を縮める。
まだ気付いてない。…あと数歩のところで、わざと足音を立てる。
加速しながら、踏み切って跳躍。
「っ誰だ！」
問いには答えず、振り向いた顔面を思い切り自重を掛けて靴底で押し込んだ。
「何が正義だ！本質も知らずにヒーロー名乗ってんじゃねえ！」
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作者名：楓 | 作成日時：2019年12月29日 1時
