壱-3 ページ3
その子のお兄さんは大きな声で弟さんに怒鳴り、荷物を地面に叩きつけた
「いつの間にかふらっと居なくなって、なに呑気に歩いてるんだ?俺の近くを歩いてたのに…それでもはぐれるなんてどこまで無能なんだよ!!」
「だって…」
弟さんはたちまち涙声になり、私はお兄さんを落ち着かせようと声をかけた
「お兄さん、えっと、今日は凄く人が多いし…」
「付き添ってくれてたんですか?ありがとうございます。ほら、もう帰るぞ」
「ごめんなさい、兄さん…」
謝られたにも関わらず、兄はまた弟を睨む
「お前が居るだけで手間がかかる。時間の無駄、無意味。ほんと名前の通りだな、お前は」
「っ…」
「無一郎の無は無力の無、迷惑極まりない。もう次から連れてこない。足手まといになるくらいなら、いない方がましだ。いても邪魔なだけ」
その時、お兄さんと会ってからのこの間で私の中に少しずつ溜まっていってた何かが弾けた
「ちょっと!そんな言い方はないんじゃないかな?」
「は?」
「あっ、えっと…」
こんなに人に対して強く出たことがあまりないので、突発的にとった自分の行動と、お兄さんの鋭い視線にたじろいでしまった
「そ…そりゃ、あなたの言ってることも間違ってはないのかもしれないけど、そこまで言うのは…言い方ってものが」
「こいつはいつもこうなんです、何も知らないのに口を挟まないでください」
「ぅ...」
正論を言われ、返す言葉もない…
「帰りたければその人にでも見送ってもらえ」
お兄さんは弟さんにそう言い放ち、先に山の方へ早歩きで行ってしまった
「あ、ちょっと…」
「…ありがとう」
お兄さんを追いかけようとした私の袖を弟さんが掴み、思わず間抜けのような声が出た
「へ?」
「…ちゃんと言ってくれてありがとう」
弱々しく笑うその瞳には少し安心したような淡い光を宿していた
「兄さんは僕を嫌ってるから…いつもこうなる度に僕は何も言えなかったんだ」
諦めたように微笑むけれどその影に見える苦しそうな様子に、私は思わず弟さんの頭に手を載せた
「きっと嫌いじゃないよ。厳しいのも、大切だからこそじゃないかな?」
「…そうかなぁ」
「大丈夫!お兄さんにとっても、あなたにとっても他にない兄弟なんだから、どうかお互いを大切にね」
まだどこか不安そうな弟さんに微笑みかけ、さよならを言って私は家路についた
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みやびりじゅ(プロフ) - 嬉しいです、ありがとうございます!頑張ります! (2022年11月5日 22時) (レス) id: eaba6d63f6 (このIDを非表示/違反報告)
七星 麗華 (ななぼし れいか) - 面白かったです!!更新楽しみに待っています!!! (2022年11月5日 17時) (レス) @page39 id: 50853c9852 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みやびりじゅ | 作成日時:2022年1月21日 21時