願わくば、【北信介】 (ページ3)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:233 hit

3. ページ3

.

「っ、お兄様、血が！」

赤黒く染まった視界には、純白の髪がよく映えた。

俺は今、上手く笑えているだろうか。

ジャラジャラと重そうな鎖を連れて立ち上がる俺の太陽。

自分も毒を盛られて苦しいはずなのに。

どんな暴言を吐き捨ててくれていいんだよ、

恨んでくれなくちゃ困るんだ。

「血が……..。
お兄様！！早く戻って治療を受けてください！！っ、早く！」

拾って育てた子供をずっと騙していたんだ、

絶交されたって呪われたって文句は言えない。

それでも、今もなおこうやって心配してくれる、
優しいあの子の行く末をいつまでも見守りたかった。

…平和な今を、守り抜きたかった。

その顔だけはさせたくなかったんだよ、

足はもうほとんど使い物にならない

左腕はここに入る時に失った。

残った右手で涙を拭ってやりたい。

君は助かるから大丈夫、と抱きしめてやりたい。

「お願い、お願いだから、いい子だから早く…」
　

体が言うことを聞かない俺の腕は、

最奥の大きな牢に到底届かない。

伸ばされる腕に応えてやれない。

朦朧とする頭で、あの子の毒が回るまでの時間を計算する。

同時に、全て知ってしまったあの子にどんな言葉をかけたらいいかな、もしも許してくれるなら。

なんて甘ったれたことも考えていた。

けれど、止まることを知らない血と頭上の喧騒が

あの子より俺の時間の方が少ないことを突きつける。

腕が上がるうちに、残りの魔力であの子を我が家へ送らなければ。

騒がしい無数の足音が降りてくる。

これは味方か、敵か。

どちらにせよ

本当に、もう時間が無い。

ゼェゼェ音がする肺に鞭を打って、
大きく息を吸い込む。

咳き込みながら、
ぐらつく視界で、なんとか白を捉えた。

頬を持ち上げて、

全身の力をかき集めて、

これだけは、言わせてくれ。

「あい、っ、してる！

誰よりも、お前を！」

どうか、どうか生きてくれ。

「お兄様ぁ！！！」

さようなら。

「いやだ、いや、まって、」

「おのれメリーディエース！！！」

ゴッと鈍い音が頭に響き、
　
あの子の悲痛な叫びが微かに聞こえる。

真っ暗闇で願うのは、他でもない君の幸せ。

それと、少しのワガママ。

もう1度、、なんて。