外の世界 ページ7
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今日からあたしは雄英高校でお世話になる。
先日了承したのは自分とは言え、気が重いことに変わりはなかった。
真新しい制服に袖を通して、身支度を整える。
ネクタイの結び方がわからず困っていると、看護士さんが結び方を教えてくれた。
数日間しか居なかったはずなのに、この病室ともお別れかと思うとなんだかとても寂しい気持ちになった。
あたしにとってこの病室は安全な鳥籠で、外はまだ未知の世界だ。
不安と恐怖。
でも、それと同じくらいの期待。
この世界は"あたし"の知らない事で満ち溢れている。
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看護士さんに病院の出口まで案内してもらう。
すると、すでに相澤さんとオールマイトがあたしを待ってくれていた。
「おはよう、志村少女！
制服、なかなか似合ってるじゃないか！」
と声をかけてくれたオールマイト。
褒められてるのかな？
似合うって自分じゃよくわからないけど、不思議と嫌な気はしなかった。
「ありがとうございます。
今日から、よろしくお願いします。」
とあたしが頭を下げると、車の後部座席に乗るように促された。
「荷物はないのか？」
とあたしに聞いた相澤さん。
あたしには持って行くものが何もなかった。
入院前に着ていた服は、血が滲んで破けてしまっていた。
その真っ黒なコートを見ていると何故か彼女が目を覚ましてしまうような、そんな気がして処分して下さいと頼んだ。
「はい。
あたしは何も持っていないので。」
と答えると
「そうか…。」
と相澤さんは一言だけ返事をした。
あたしは何も持ってない…。
そう、何も持ってないんだ。
あたしは車の中から外の景色をずっと眺めていた。
道を行き交う人々、青々とした草木、眩しい陽射し、たくさんの建物…。
それらはAの中から見ていた風景。
けれど、ぼんやりとした意識の中で見るよりもとても鮮明で色鮮やかで、とても美しかった。
道行く人々が皆幸せそうに笑う。
この世界は、ヒーローに守られている。
そうやって平和は保たれている。
皆穏やかに生活したいだけなのに、なんで敵はその生活を脅かそうとするんだろう？
…なんて、元敵らしくない事を考えていた。
でも、あたしはAであってAじゃない。
彼女がどうしてヒーローを嫌うのか…。
どうして本当は望んでない犯罪行為に手を染めるのか…。
それだけはあたしにもわからなかった。
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作者名：九音 | 作成日時：2021年3月3日 23時
