真実と幸福 ページ27
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もしかしたら拒絶されるかもしれないと思うと怖い。
でも明日になったら、勇気がなくてまた言えなくなってしまうような気がする。
言うなら…今しかないと思った。
「なぁ弔…。
オレの話、聞いて欲しいんだ…。」
と弔の背中に手を回したまま服をギュッと掴んで声をかけた。
「ん？」
と優しい声色で返事をした弔。
「オレ…ずっと弔に黙ってた事があるんだ…。
もしかしたら、弔はそれを聞いたらオレを拒絶する
かもしれない。
そう思うと怖くて、今まで言い出せなかった…。
オレさ…。
本当は弔の双子の妹の志村燈じゃないんだ。
どこの誰かも知らないガキの身体に定着した、燈の
魂から生まれた人格なんだ。
オレは燈を元に形成された死柄木Aっていう人
格でしかないんだ。
この身体もこの魂も、弔と血の繋がりなんてない人
間なんだ。
ずっと黙ってて…ごめん。」
弔の返事を待つ間、身体が震える。
オレは拒絶の言葉に怯えてる。
弔にだけは拒絶されたくない…。
「あの時神野にいたのが燈？」
弔はやっぱりわかってたんだ。
「そう。
この肉体には二人分の魂が宿ってる…。
志村燈本人の魂と、死柄木Aというオレの魂。
オレは志村燈から生まれた器のない魂だ。
未だに燈の個性はわかんねぇし、なんでこうなった
かはオレにもわからない。
けど、燈の身体は今も空っぽのまま生きてる…。
魂をあるべき場所へ返せば弔はまた燈に会える。
弔が拒絶するなら、オレは弔の元を離れる。
嫌われる覚悟は…できてる。」
本当は覚悟なんてできてない。
離れたくない。
嫌われたくない。
これは精一杯の虚勢だ。
だけど、嘘をついたまま弔の傍にいるのはどうしても嫌だった。
「Aが先生に連れられて俺の元に来てから14年。
俺はずっとAと一緒だった…。
そこに血の繋がりがなくても、Aからもらった
愛情に嘘はなかったと思ってる。
それにAの中に燈がいるなら、まったくの偽物
じゃないだろ？
俺は、例えAが何者であっても今更手放すつも
りはない。
本物の家族かどうかなんて、どうでもいいんだ。
Aといた14年間は本物だったんだから。」
そう言うと、弔はオレの額にそっとキスをした。
弔はオレを拒絶しなかった。
偽物のオレを受け入れてくれた。
オレにとってはそれだけが、ただただ幸福だった。
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作者名：九音 | 作成日時：2021年3月3日 23時
