ビール ページ3
「あ、ビールが一番好きです。基本的には何でも飲めますけどね。」
「そうなんや。酒強いんやね。」
「可愛げ...ない位に強いかもしれません。」
私は天井を見上げながら言った。
「Aちゃん、こいつに飲ましてもらい！金持ちやから！」
「やめてぇや、田中さん。そのネタばっかりやん。」
どっかで見た兄ちゃんが田中さんの肩を叩きながら否定する。
「わぁ、それやったらもう１本もらお〜。」
私は新しいビールを高くかざしながら笑った。
その後はたわいもない話をしながら、２人はお酒を飲み、田中さんは上機嫌になっている。
「田中さん、大丈夫？あんまり飲んだら奥さんに怒られるんちゃう？」
私が注意すると、トイレに立った田中さん。
「ほんまにもう...。」
私はブツブツ言いながらホットボックスから熱いお絞りを出す。
お手洗いから戻ってきたお客さんには新しいお絞りを渡すのが決まりで、カウンターの上にお絞りを置いた。
「あー、しんど...。」
どっかで見た兄ちゃんが前髪をかき上げながら呟く。
「もう疲れるわ。大阪帰ってきたら実家に帰ろう思てるのに、俺を連れ回してめんどくさい。」
「実家、大阪なんですか？」
「うん、高槻や。」
「あ、あぁ、摂津峡あるとこですよね？子供の時に遠足で行きましたよ。」
「高槻知ってるんやな。Aちゃんの実家は？」
「...私は堺です。」
本当は違うけど私の地元は小さな街で、地名を言ってもわかってもらえない事が多い。
だから近くの政令都市である、堺だと言うことにしている。
「堺て、刃物の？」
どっかで見た兄ちゃんが首をひねりながら聞いてきた。
「後は与謝野晶子も有名です。君、死にたもうことなかれ。」
「あぁ、与謝野晶子って堺やったんや！」
「はい。」
私達が話していると田中さんが戻ってきた。
「おかえりぃ。」
そう言いながらお絞りを手渡す。
「ありがとう。何や、何の話をしてたん？」
「Aちゃんの地元、堺やねんて。」
「前に言うてたなぁ。」
田中さんはグラスに焼酎を入れながら頷いた。
「なぁ、Aちゃんって、何でこの仕事してんの？」
めんどくさい質問をしてきた、どっかで見た兄ちゃん...。
今まで何人、何百人に質問されたかわからん愚問。
(...そんなん聞いて何が楽しいねん。)
私は「いや、ちょっとね。」と誤魔化した。
カランカラン...
「遅なってごめんやで〜。特売やってて...田中さん来てたん〜。」
ママが袋を両手に下げて帰ってきた。
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作者名：KYRKR | 作成日時：2017年5月20日 1時
