弱虫10匹 ページ12
私はロングトーンが好きだ。
基本中の基本、まずこれがしっかりしてなくちゃ始められない。そんなロングトーンは、誰にでも簡単にできる基礎練のひとつであり、極められる人がとても少ないものでもある。
私がえんえんとメトロノームに合わせて吹き続ける少し遠くで、長濱先輩の細やかなタンギングが聞こえてきた。先輩はまだ1度も合奏でタンギングを外したことがない。他のパートにかき消されてしまうような場面でも、隣に座る私の耳に、外れた音が聞こえてきたことは無い。
貴「すんごい吹いてるもんなあ…。」
先輩はずっと吹いている。休憩中も、通常の部活の前も後も誰よりも長く吹いている。以前、先輩にいつトランペットを始めたのかとか、色々質問したことがあった。
________
貴「先輩は、いつからラッパやってるんですか?」
長濱「中学二年生から。その前まではずっとピアノやってたんよ。」
なんで急に楽器変えたんですか?と聞いても先輩はえへへと誤魔化したように、
長濱「そんなたいそれた理由やないよ。むしろこんな理由話したら東京No.1のAちゃんには笑われてまうかもしれんわあ。」
少し赤い顔で笑って言った先輩は、嫌味なんかじゃなく純粋ないじりのように「No.1」と口にした。私もそれが、自然と嫌じゃなく、あっさりとツッコミを入れられた。
貴「先輩、それ嫌味ですか〜?(笑)」
長濱「ちゃうわ!!(笑)」
で、どんな理由なんです??と再度聞き返すと、先輩はトランペットを片手に持ったまんま両手をあげ、降参、のポーズをとった。
長「幼馴染の応援がしたかったんよ。ラッパやったらでかい音量で吹けるから、幼馴染まで届くなあ思ってな。」
貴「…私も、幼馴染の真似して習い事はじめて、それがラッパでした。」
長「お?!不純仲間やーん(笑)」
まあ、とピストンをかたかたならしながら先輩はまっすぐ私を見て言った。
長「どんな理由ではじめても、うちはこれにめっちゃプライド持って吹いとる。いつのまにか、これがうちの1番大事なものになっとったしな。」
貴「…先輩、めっちゃかっこいいですね。タンギングのコツ教えてください。」
長「いや、今聞くんかーい」
おお、生ツッコミ。と感動したように私が言うと、先輩は大爆笑で私をばしばしと叩いてきた。
なんだか、私が兵庫に来た意味をちゃんと飲み込めた気がした。これは倫太郎のためとかじゃなく、ちゃんと自分で選んで自分のためにそうしてるんだなって。
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水野 - 更新待ってて良かったです!超面白いです! (2020年7月20日 21時) (レス) id: cdb3fa391f (このIDを非表示/違反報告)
さくやん(プロフ) - ?さん» 申し訳ありません!修正しました! (2020年7月9日 21時) (レス) id: 417db36de3 (このIDを非表示/違反報告)
至ってノーマル - 素敵すぎます!!!!!めっちゃ好きです!!かっこかわいい推しをありがとうございます!!!!応援しております! (2020年7月9日 18時) (レス) id: 5e35942dd3 (このIDを非表示/違反報告)
?(プロフ) - 途中から名前が万智になってます(泣) (2020年7月9日 17時) (レス) id: f4c6db3892 (このIDを非表示/違反報告)
Rui(プロフ) - はじめまして!とても面白いです!更新楽しみにしてます!! (2020年3月28日 21時) (レス) id: 6ad8403b99 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さくやん | 作成日時:2019年9月13日 23時